靴をなくした天使のレビュー・感想・評価
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【”人は誰でもヒーローになる内なる資質がある。”今作はマスコミに作られたヒーローと、息子を愛するヒーローとを描く真のヒーローとは何かを描いたシニカルコメディである。】
■コソ泥で保釈中のバーニー(ダスティン・ホフマン)がハイウェイをドライブしていると、目の前で飛行機が落下する。
機内から嫌々ながら54人の負傷者を救出した彼は、乗客の財布を取って姿を消す。
彼は救助中に片方の靴を失くしてしまい、知り合いのホームレス、ババー(アンディ・ガルシア)にその靴を上げてしまうが、機内に残された靴から、ババーは54人の命を救ったヒーローとして、マスコミに大きく取り上げられ、100萬ドルを貰う。
だが、偶々、事故機に乗り合わせていて、顔中泥だらけの男に助けられた敏腕テレビレポーターのゲイル(ジーナ・デイヴィス)は彼の行方を追う。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作は、基調はマスコミのヒーローをでっち上げたがる体質を揶揄しながらも、それをシニカルな笑いに変えている。
・バーニーも、行為自体はヒーローだが、彼の行為は”仕方なく人助けをする”と言う彼の元妻が言う性格に寄るモノである。
・一方、マスコミに作り上げられたヒーローであるババ―も、弱者救済のためにヒーローとして、頑張るのである。但し、彼の中では葛藤があり、最後は本当の事を書いて飛び降り自殺しようとするのである。
・そこに現れたバーニーは、彼と取引し、息子への進学資金融資を頼む代わりに、本当のことは言わない約束をするのである。
<ラスト、息子と動物園に行ったバーニーの所に”ライオンの檻の中に人が落ちた!”という叫び声を聞いて、ヤレヤレという感じで、バーニーが助けに行く様がクスリと笑えるのである。
今作は、マスコミに作られたヒーローと、息子を愛するヒーローとを描く真のヒーローとは何かを描いたシニカルコメディなのである。>
ヒーローの消費
DVDの販売タイトルは
「ヒーロー 靴をなくした天使」ですね。
検索してみたところ「ヒーロー云々」と名のつく映画がこんなに多くてびっくりです。
ヒーローが掃いて捨てるほど溢れかえっていて、なんだか呆れました。
TVのワイドショーは「ヒーロー」と「ヒール」を双方探し回っています。それを特ダネとして飯のタネにしているレポーターたちの姿は、世界共通のようです。
視聴者がヒーローとヒールが大好きだからです。
でもまあ、そこ、最近よくあるシリアスな「メディア告発映画」としてではなく、軽妙なコメディとして、
それも敢えてチープに取り上げるところが面白かったですね。
・靴を失くして⇒“桶屋が儲かる”方式。
・片一方だけの靴の貧乏人が一夜明ければ大金持ちになる⇒シンデレラのストーリーがモチーフ。
ヒーロー信仰とアメリカンドリームのチープさをダブルで嘲笑う いけない映画だろうなあ、これ。
そしてバーニーとババーだけの「タネ明かし」でハッピーエンド。
バーのマスターが言ってました
「いいじゃないか、ヒーローじゃなくったって人間に変わりはないんだから」(吹替版)
ここを、この映画は言いたかったのでしょうね。
そして
善意と勇気は世の中に連鎖するという事。
そしてさらに
誰しも善意と勇気の一歩は、誰しも一度試してみると、あとはハードルが下がるだろうという知恵も。
エンディングはお説教臭かったですけど。
主演のダスティン・ホフマンは、いつもこんな変わり者の役ばかりをもらう俳優。本作でも巨悪との対決とか大きな美談などには一向に興味を持示さない“こそ泥”としてのキャラクターで貫徹。安定の演技でしたね。
まあまあの映画でした。
・ ・
ただ、気になったのは
「墜落機での救命活動」のエピソードと、
「ベトナムでは敵をたくさん殺した英雄」である事が、まったくためらわれる事なく劇中で同列に語られていて「これこそヒーロー」と称賛されているのには、ちょっとどうしても違和感が拭えなくて。
ブラックジョークかと思ったが、矢張り かの地では退役軍人はヒーローとして絶対的尊崇の対象であり、ストレートに持ち上げられている様子。
ベトナム戦争から20年後の制作なのにあれです。
僕は正直引きました。
ハリボテの飛行機が鉄橋に引っ掛かるのは笑えたんですけどね。
・・・・・・・・・・・・・
【おまけ】
バーニーは54人の乗客を救いました。
以下は有名なアメリカのスタンダップコメディですが、
「緊急救出の小話」です。
クルーズ・ツアーの豪華客船が浸水して、今や沈没の危機です。
さあどうする!
「尻込みして渋る乗客をどうやって海に飛び込ませるか」って船員の腕の見せどころです。
国籍ごとに使い分けるプロの言葉で、各国の乗客が次々と海に飛び込んだという、その《秘訣》は?
ロシア人の乗船客に
「お客さん、ほら見えますか?水平線のあそこにウォッカの瓶が流ていますよ!」
で、ドボン!
イタリア人に
「あ、あそこに美女が泳いでますね!」
で、ドボン、
ドイツ人に
「規則ですから飛び降りて下さい」
で、ドボン!
くだんのアメリカ人に対しては
「あなたが最初に飛び込めば、あなたは間違いなくヒーローです!」
だそうです(笑)
で、この小話には日本人乗客も含まれているんです、
「ほらご覧なさい、皆さん飛び込んでおられますね」。
・・これで日本人は言うことを聞くんだそうです。
悲し。笑えん。
そんなヒーロー
100ドルの靴を必死で探すバーニー。そこには世間一般のヒーロー像とはかけ離れたものがある。助け出すときにもハンドバッグを頂戴するほどの火事場泥棒。バーバー(ガルシア)が一旦ヒーローになってしまった事実は覆すと大変なことになるだろうと途中考えてしまったが、バーニーの考えは私の考えと一致したみたいです。見事に私の心がバーニーと同化してしまったようだ。それでも、「何故本当のことを言わないんだ?」とハラハラさせられますけどね。
脚本がすごく良いのに、編集において無駄な部分が多いような気がする。バーバーに「バレたらどうしよう」という心境をもっと表現するとかしないと、自殺しようとしていることが不自然になりますよね。
何回観ても楽しめる
マスコミが勝手な虚像をつくる
総合:70点
ストーリー: 65
キャスト: 80
演出: 65
ビジュアル: 70
音楽: 65
マスコミは話題作りに英雄を作りたがる。特にアメリカはそういうことが好きだ。そしてあっという間に英雄像が作り上げられ、そうあるべきことを求められる。
しかし人々を救った実際の英雄は、実は犯罪者でいいかげんでくだらない人物。そういう人がたまたま英雄行為をすることも実際は多いのではないだろうか。いい行為をした人はマスコミによって往々にして本人の本当の姿と異なる虚像を作り上げられてしまうものだろう。
それでも今回は偽者と本物の需要と供給が一致し、めでたしめでたし。
好きな嘘だけを
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