「原作とは違いました」少年と犬 のけんちさんの映画レビュー(感想・評価)
原作とは違いました
タイトルに惹かれて、事前知識を一切入れずに鑑賞しました。
結論から言うと、邦画のダメなところが見事に詰まった作品でした。
それでも、良かった点を挙げます。
・出演される俳優さん方が脇役のすみずみまで豪華
・映像、美術面でもちゃんとお金がかかっている
撮影技術、照明など、俳優さんを置いた背景との画作りの良さが印象に残る
・劇伴も良い
・震災の傷跡を生々しく描くことに果敢に挑戦した
・脇役の俳優さんたちはちゃんとがんばってる
悪かった点
・原作の持ち味を殺す独自改変(脚本が最悪)
全てはこれに尽きます
・主演俳優二人の画の持ちの良さを活かせない展開
・原作にない登場人物の意味の無さ
・豪華俳優さんが出てくるだけで、台詞がことごとく陳腐
・タイトルの「少年と犬」が全然主題じゃない
・原作への敬意が何一つ感じられない
これだけ豪華な実績ある制作陣と俳優さん、大きな受賞歴のある原作小説を用いながら、こんな映画を作って恥ずかしげもなく宣伝し、公開してしまう。
日本の映画界、特に脚本家は本当に恥ずかしいと思いました。
何もかも原作通りに作れとは思いませんし、公式サイトで監督さんが語られていた「原作者からの物言いや指示は一切なかった」というコメントなどを見ても、原作者は制作陣の華々しい経歴に信頼をもって作品を制作陣に委ねたのかもしれません。
ですが、昨今、日本テレビのドラマ制作でも話題になった脚本家による原作の改変、原作者への敬意を欠いた独善的な姿勢があまりにも酷いという現状を、この映画からも強く感じました。
これは日本映画界、日本シナリオ作家協会が抱える病巣、とすら言える気がします。
鑑賞後、あまりにも映画が酷かったので原作小説を後から買って読みました。
原作小説は、賞に値すると納得できる名作でした。
この映画の功罪の功があるとすれば、直木賞受賞作ともあろう作品が映画になって、こんなにも陳腐でどうしようもないことに疑問を抱いて、未読だった「少年と犬」の原作を手に取るきっかけになった、ということだけかもしれません。