「少女が聞かされたのは、犬と少年の話というよりは、不幸な男女の碌でもない話だったように思う」少年と犬 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
少女が聞かされたのは、犬と少年の話というよりは、不幸な男女の碌でもない話だったように思う
2025.3.20 MOVIX京都
2025年の日本映画(129分、G)
原作は馳星周の小説『少年と犬(文春文庫)』
飼い主とはぐれた犬を目的地に連れている男女を描いたロードムービー
監督は瀬々敬久
脚本は林民夫
物語は、2025年のある町にて、須貝美羽(西野七瀬)がバスに乗り込むところから始まる
車内には星座図鑑を読んでいる少女(鈴木唯)がいて、どうやら同級生からハブられているようだった
美羽は積極的に声をかけ、この街に何があるかを聞いていく
それをきっかけとして話が続き、美羽はある犬(さくら)と青年・中垣和正(高橋文哉、幼少期:大西湊)の話を語りだした
和正は東日本大震災の被災者で、高校の先輩・沼口(伊藤健太郎)から斡旋された窃盗団の運転手をして汚い金を稼いでいた
ある日のこと、コンビニで買い物をしていた和正は、その店頭にいた飼い犬・多聞に出会う
店員(前田悠雅)は「ずっとそこにいる」と言い、「これ以上いたら保健所に通報しなくてもいけなくなる」と続けた
そこで和正は、多聞を引き取ることになり、車に乗せて一緒に行動を共にするようになった
そんな折、沼口から「外国人窃盗団の運転手もして欲しい」と言われてしまう
外国人たちは街の宝石店を襲うガチの強盗で、最初は断りを入れるものの、母・洋子(手塚里美)の介護をしている姉・麻由美(伊原六花)の支援をしたいと考えて参加することになった
窃盗団には日本語を話せる通訳的な女(嵐莉菜)もいて、この事件はニュースで大きく報道されるほどのものだった
物語は、その外国人たちが裏切りにあって襲われ、通訳の女は隙を見て多聞を連れ去ってしまうところから動き出す
和正も大怪我を負い、汚い金を稼いでいたことも姉にバレてしまう
怪我が癒えた和正はネットを中心に多聞を探し始め、ようやくSNSの投稿から居場所を突き止めることになったのである
映画は、美羽が少女に多聞が東北から熊本まで辿っていく過程を話していく冒頭があり、中盤からは自身の滋賀時代の回想が挿入され、事件の数年後に「多聞が無事に目的地に着いたこと」を知るという流れになっていた
映画的には語り手がコロコロ変わり、聞き手も定まっていない感じになっているのだが、一応は少女に最後まで語っている、という構成になっていた
原作はどんな構造になっているかは知らないが、美羽が見ず知らずに少女に語る理由もなければ、彼女が知らない情報も語られまくっていく
後半では、事故によって亡くなった和正の幽霊から聞いた話を少女に話している、という内容になっていて、普通に考えるとおかしなことばかりになっている
少女としても、生きて再会した和正が教えてくれたゴールまでの後半戦という感じに思いたいのだが、和正が死んだということは理解している
おそらくは、出所後に多聞のことを調べてたどり着いたブログによって、その書き手である光(木村優来)の父・徹(斎藤工)との交流によって色々と知ることになったのだと思うが、彼自身も「猟師(柄本明)と別れた後にどうやって家まで来たのか」は知りようがない
幽霊がブログにコメントでもしないとわからないので、そこの情報は誰も知らないだろう
なので、和正を事故死させるよりは、彼が無事に届けて、そこからどこに行ったのかはわからない、という結びにしても良かったと思う
美羽の出所を出迎えるという約束があって、それが果たされると映画のエンディングが描くべき方向と変わってしまうから退場させたのかもしれないが、そこはさらっと描けば良いだけで、わざわざ謎の少女を登場させるよりは、和正と再会して「彼からゴールまでを聞く」という流れにすれば良かっただけのように思えた
いずれにせよ、光の父が知り得た情報を並べていくタイプのオムニバスにした方がしっくり来るのだが、エピソードが多すぎて2時間では収まり切らない
そこで、出発点と中間点のキャラを抽出して、あたかも彼らがほとんどの道程で一緒にいたかのように描いている
でも、東北から滋賀までは不明だし、兵庫から猟師も不明で、漁師から熊本も不明と、かなりの道程が端折られていることがわかる
なので、色々と大人の事情が込み入った無理な構成になっているように思えるので、物語に没入しづらい構成になっているのではないか、と感じた