「思ってたのと違ったな」少年と犬 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
思ってたのと違ったな
予告から、動物と人との織りなす感動の物語を期待して、公開初日に鑑賞してきました。思ってたのとちょっと違い、後半のファンタジー展開にびっくりしましたが、犬の名演技にほだされて、気持ちよく泣かされてしまいました。
ストーリーは、東日本大震災から半年後の仙台で、犯罪グループの下っ端として日銭を稼いでいた青年・和正が、偶然出会って飼い始めたものの、ある事件を機にいなくなってしまった犬・多聞が、滋賀県で暮らす女性・美羽のもとで飼われていることを知り、美羽のもとを訪ね、彼女とともに、多聞がずっと気にしていた西を目指すというもの。
なぜか西を目指す多聞と、多聞との交流を通して変容するさまざまな人の姿が描かれ、多聞がもたらしたたくさんの幸せを感じて、鑑賞後はじんわりと心が温かくなります。多聞と出会ったことで、和正の母に明るさが戻り、姉は笑顔になり、自身もまっとうな仕事に就き、何か一つぐらいいいことがしたいと望むようになります。人生に絶望していた美羽は再び生きる意味を見出し、孤独な老人は最期の瞬間を看取ってもらい、心に傷を負った少年は声を取り戻し、命を救われます。
多聞が振り撒いた幸せのタネは、きっと人々の心で芽吹き、これからも大き育っていくのでしょう。そして、救われた少年が言うように、亡くなったからといっていなくなったわけではなく、多聞は人々の心の中に、和正は美羽の心の中に、これからもずっといるのでしょう。東日本大震災、熊本地震で多くの命が失われましたが、その方たちも愛する人々の心に溶けこみ、今もずっと存在し続けているのでしょう。本作は、震災の鎮魂歌でもあるように思います。エンドロールは、セカオワの「琥珀」がじんわりと沁み、心穏やかに余韻に浸れます。
ただ、時系列が頻繁に行ったり来たりして、なんとなく感情が寸断されてしまい、どっぷり浸れるとまでは言えません。また、多聞の出会う人々がそれぞれに苦しい事情を抱えているのですが、その情報量が多すぎて、内容を詰め込みすぎな印象を受けます。この二つが原因で、話がちょっととっ散らかっているように感じられるのは残念です。
主演は、高橋文哉さんと西野七瀬さんで、多聞へ思いを感じさせるとともに、多聞を通して変化する二人の関係性を見事に演じています。脇を固めるのは、伊藤健太郎さん、伊原六花さん、嵐莉菜さん、栁俊太郎さん、一ノ瀬ワタルさん、斎藤工さんら。そして、なんといっても多聞を演じたワンちゃんが最高です。
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