「子供をトランプ信者にさせたくなければこの映画を観せるべき」野生の島のロズ おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
子供をトランプ信者にさせたくなければこの映画を観せるべき
予告を観た時は子供向きと思って敬遠していたが、評判の高さで鑑賞。
子供も大人も楽しめる、凄い映画だった。
まず、映像が凄い。
うまく言葉で説明できないが、明らかにアニメなのに、リアルな世界のように感じた。
とにかく映像を観ているだけで楽しく、ワクワクした。
出てくる動物の挙動はリアルなのに、思考はとても人間的。
ロボットのロズと動物たちの会話で笑える場面が多く、何度も吹き出してしまった。
笑いのセンスが自分好みだった。
オポッサムの子供たちの言動が常に予想の斜め上で、心掴まれまくり。
食物連鎖の中で生きる野生動物たちにとって「死」は日常の出来事で、誰かが亡くなっても基本的に深く思い悩むことはなく、そこは人間社会と違うところに感じた。
ロズが雁(渡り鳥)の卵を見つけたことで、孵化したひな鳥を「キラリ」と名付けて育成をしていくことになるが、ロズはプログラム通りに動くだけのロボットのはずなのに、親が亡くなった真相をキラリにいつ伝えるかで悩んだり、成長して反抗期を迎えたキラリに四苦八苦するロズの姿が、人間の子育てと同じように見えるのは面白い作りに感じた。
ロズが家を建築中、まだまだ幼いキラリが仕事を手伝おうとするも、力不足で大したことができず、ロズにとっては明らかに足手まといなのに、ウンザリした顔をしながらも付き合ってあげるのが素晴らしいと思った。
なかなかこういうことができる親は少ない気がする。
子供の「人の力になりたい」という気持ちを、まずは肯定してあげるって大事なことだと思う。
キラリが渡り鳥として旅立つ場面が壮観。
「今まで島のどこにいたんだ?」と思うぐらいの大量の雁が一斉に飛び立つ映像がものすごい迫力で、映画のクライマックスとしてふさわしい場面と思っていたら、後から考えるとこの場面はまだ映画の真ん中だったという衝撃。
この後、大量の雁が人間世界に迷い込むが、人間視点からすると大量の鳥が集団で動いているのを見ると恐怖を覚えたり迷惑に感じたりするが、それを鳥側の視点で見せていくのは興味深かった。
野生の島の動物たちが冬眠をする場面。
異常気象が起こるというのも今時を反映しているが、ロズの家で起こることが、今の社会にぶっ刺さる素晴らしすぎるメッセージに感じた。
みんなが弱肉強食の本能のまま生きていたら世界は混沌し、容易に滅亡する未来が見えるが、それを防ぐために本能というプログラムを超えてみんなで手を取り合った方が良くない?というメッセージ。
さらに、キツネのチャッカリが言う「みんなが死ねば島を独り占めできる」という考え方をロズが否定し、ロズの利他的行動があったからこそみんなが助かる展開。
トランプ的思考のまま世界が突き進んだら世の中どうなるか、それを防ぐためにはどうすべきか、野生動物たちの取る行動を鑑賞しているとそれが伝わる作りになっていて、圧巻の内容だった。
この場面だけでも観た価値十分だが、この後も動物軍団VSロボット軍団による2019年公開『アベンジャーズ エンドゲーム 』のクライマックスみたいな盛り上がりが待っていて、最後まで徹底的に作り込まれた素晴らしい映画だった。