「あの指揮者の笑顔の理由」ビバ・マエストロ!指揮者ドゥダメルの挑戦 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
あの指揮者の笑顔の理由
ここ長野県塩尻市、
上映のためのフイルムは、都会を回遊したあとに、ゆっくりとこの片田舎に廻ってくる。
映画館での鑑賞を心待ちにする間に
2024年12月11日の
ドゥダメルの「ノートルダム大聖堂 リ・オープン演奏会」―
「サン・サーンスの3番、オルガン付き」、
この第三楽章をYoutubeで楽しんだ。心底楽しんだ。
彼のYoutube映像は、今まさにタイムリー。雨後のタケノコのようにアップが増えている。本人のチャンネルも開設された。
演奏会シーンだけでなく、練習の光景もいいのだ。凄くいいのだ。
「ドゥダメルの あの指揮」を見ていると、ほら、見ている僕らまで顔がほころんてしまうのはどうしてなんだろう?
音楽への喜び。
人間への信頼。
それが溢れている。
そして5年前のあの悲惨な火災から立ち直った、パリの魂にして世界の至宝=ノートルダム大聖堂 復活への歓喜。
笑っているドゥダメルの指揮は、そうなのだ、僕らの笑顔まで、そのタクトで引っ張り出してくれるのだ。
・・ (失礼ながら) お顔のお怖くていらっしゃる指揮者もあまた沢山いるけれど、「この人に会いに行きたい!」と思わずにはおれないドゥダメルは、本当に魅力的な人だ。
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素晴らしいドキュメンタリーだった。
とても見やすくて分かりやすい。
指揮者とはどんな役割を成しているのかも僕たちに教えてくれる。
こわばっていたそれまでの演奏が、ドゥダメルの夢見心地の一言で新しい命を吹き込まれる瞬間。音が一変するあの瞬間には驚愕した。
人と人との「中垣」を外し
クラシックファンと、音楽に縁の無かった“取り残されていた部外者”たちとの「障壁」を毀コボち、
東と西と、南と北との、世界の「国境」をその翼で安々と越えようとする彼。
「奇跡」は暴力によってではなく、その人がらによって起こるのだと僕たちに目撃させてくれる。
しかしこの「笑顔」の影には、実はこんな苦難も経てきたお方なのだと
初めて知らされた本作だった。
そして圧巻は、エンディングでの「師匠アブレムへの追悼コンサート」。
全員が喪服だが、ドゥダメルは国情ゆえ故郷を捨て、失意のうちに、裏切るかのように楽団を離れざるを得なかった“難民状態”の演奏者たちを探し出して、再びその羽根の下に集めた。
そして (ここで僕は打ちのめされて涙が止まらない) 、
あのチリ・サンチャゴで死んだ詩人パブロ・ネルーダ。その人の詩の一編をば演奏会決行の縁ヨスガとしてドゥダメルは仲間に語る
「すべての花が刈られようとも、春は必ずやってくるー」。
そして言葉を次ぐ
「君たちは残った根っこなんだよ」と。
「イル・ポスティーノ」でパブロ・ネルーダへのレビューを捧げたばかりだった僕は、続けて観ることになった本作の、この言霊の持つ迫力、
そして言霊が人を生かす力に、ただ猛烈に圧倒されるばかりだった。
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失意の時こそ、祝祭が輝くのではないか?
分断と不信。脅迫と戦争ばかりのこんな時代だからこそ、世界が彼=ドゥダメルの指揮に賭けて、「ノートルダム再建演奏会」に、彼に白羽の矢を立てた事。
納得しかない。
“人間回復”を、希望させてくれました。
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「オーケストラ全体を抱きしめなさい。
手は飛行機のように、鳥のように
手には翼と胴体があり、鳥は飛びながらそこに風を感じる。
自分の手に風を感じるんだ」。
ドゥダメルを薫陶したアブレウ氏の彼へのアドバイスだ。
楽団員は、指揮者によって支配されるのではなく、プライドを持って輝く音楽家になってゆく。
いいなぁ。
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映画館での、今年最後の鑑賞でした。
忘れられないX’masプレゼントを頂きました。
塩尻、東座のみなさん、そしてフォロアーの
sow_miyaさんにSpecial thanks。DMでのオススメを頂き感謝です。とっても良かったです。
小雪の中、バイクで駆けつけましたが、ベネズエラの指揮者にハグされて、僕の心はこんなに温かです。
ありがとうございました。✨✨
いつもながら素敵なレビューを拝読できて幸せです。
ドゥダメルのチャンネル開設!
ぜひチェックします。
おすすめした立場でありながら、きりんさんにドゥダメル情報をいただくばかりで自分が情けないですが(笑)
きりんさんのレビューの「楽団員は、指揮者によって支配されるのではなく、プライドを持って輝く音楽家になってゆく」という部分に、強く共感しました。
本作で描かれているエル・システマの取組もその通りなのですが、「教育」という営みの本質も、やはりテクニックではなく、人格と人格の触れ合いにあると思うのです。
どんな年齢のどんな演奏者に対してもリスペクトを欠かさないドゥダメルの「並び見」の立ち位置が、見事に言語化されているレビューだと思いながら読ませていただきました。
当方、色々あった1年でしたが、なんとか無事年を越せそうです。
きりんさんも、よい年をお迎えください。また来年もよろしくお願いします。