劇場公開日 2025年1月10日

「食べることより作ること」劇映画 孤独のグルメ かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 食べることより作ること

2025年9月14日
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主演俳優がメガホンを握ると大抵映画は失敗する。しかもシリーズ10まで続いている名物TVドラマの二次創作とくれば、劇場にわざわざ足を運ぶのはドラマのコアなファンだけだろう。よせばいいのに監督のみならず脚本まで松重豊が担当したというから驚きだ。『きのう何食べた』の劇場版も散々な結果に終わっていたので、まったく期待しないままアマプラ無料配信で拝見したのだが、松重豊が映画に拘った理由が少しだけわかった気がしたのである。

はっきりいって、五郎さんがわざわさフランスくんだりまで呼び出されたり、五島列島にスープ出汁の原材料を探しにいったり、遭難して韓国のなんちゃら島に漂着したりするエピソードは、大きな器に合わせた余計なトッピングに過ぎないかもしれない。しかし、オダジョー演じる店主がワンオペで切り盛りするラーメン屋にある意外な人物が訪れるシーンに、私は注目したいのである。

確かに30分のTV枠でこのとっておきのメタ演出を披露するのは時間的に難しく、街の定食屋が出す飾り気のない料理を五郎さんが旨そうに平らげる目玉のシークエンスを、台無しにしてしまうことだろう。あくまでも作ることより食べることに比重を置いた食テロドラマなのである。出来れば今回料理などしたことも無さげなオダジョーよりも、本当に料理がお上手な西島秀俊あたりが適役だったと思うのだが…それは何故か。

自炊派の私にとって、ひたすら出された料理を味わう本シリーズよりも、実は『きの食べ』や『晩酌の流儀』など料理作りに重きを置いたドラマの方が好みなのだ。そんな作り手の気持ちを松重豊が味わいたかったのかはわからんが、今回珍しく無人島の浜辺で“即席五郎鍋”を自炊したりするのである。フランスや韓国の料理店、内田有紀やオダジョーの作る料理が比較的地味であまり美味しそうに見えなかった理由もきっと他にあるのだろう。

杏に磯村勇斗、オダジョーに内田有紀といった有名タレント具材を絶妙にブレンドさせた(たとえ派手さはなくても)滋味豊かな“スープ”のような映画を“作る”こと、監督松重豊の狙いはまさにそこにあったのではないだろうか。故に普段滅多に作らない鍋にも挑戦し、料理の作り手側の立場になって、“セントレア(真心)”を込めた具材探しに奔走したのではないだろうか。普段味わってばかりの自らの分身をあの場面に使った理由も、おそらく同じだったに違いない。

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かなり悪いオヤジ