「意外と出来が良い、というかTVドラマの品の良さを大事にした筋目正しい映画」劇映画 孤独のグルメ あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
意外と出来が良い、というかTVドラマの品の良さを大事にした筋目正しい映画
TVドラマはシーズン10まで続いているのか。すっかりテレビ東京の看板ドラマシリーズとなった。少なくとも再放送される回数はテレ東のドラマでは過去一番多いのでは。
そのテレビ東京が開局60年を迎えたということで看板ドラマを映画化した。
期待半分、不安半分という心持ちで観にいったがなかなか面白いしTVドラマの良いところはきちんと踏襲していて気持ちよかった。
このTVドラマは輸入雑貨商である井之頭五郎が本業の仕事のためにどこかの街を訪れるところから始まる。仕事絡みのやりとりが前半ほんの数分間ありその後は腹が減った五郎がどこかの店に入り何かを食する話につながる。基本、前半部分と食べるものは関係なくドラマとして膨らむとか続くということは全くない。ここが潔い。五郎は背筋をビンと伸ばし、実に美味そうにいろいろなものを食べる。食べ方がやや汚いという意見もあるようだがともかく美味そうである。そして満腹し幸福感に浸りながら店を後にする。
多分、美味いものを腹いっぱい食べるというのは人間の根源的な幸せであろう。だから我々は毎週、幸せな人の姿を30分かけてみているのである。よほどひねくれた人間でなければ幸福感のおすそ分けしてもらっているという感じを受けるのではないか。
この映画は、本質的には、ドラマと同じ構造である。いわゆる「ザ・ムービー」っていうやつでは映画化にあたっていらないサービスをつけようとする。主人公の前日譚や後日譚であったり、特別なエピソードを盛り込もうとしたり。
でも、この映画は、井之頭と、井之頭を巡る人々の最低限のやりとりと、食材と、食堂と、料理と、それしか出てこない。最初の方、ちょっとだけパリの杏の母親が昔、井之頭と訳ありだったようだとか、あとは夫婦だった内田有紀とオダギリジョーの関係についてもちょこっと触れられる。でもそれ以上は踏み込まない。そこが何とも品が良い感じを私は受ける。
松重豊さん自身が監督しているだけのことはある。さすが分かってらっしゃる。