「らしくなさと強引な展開に違和感」劇映画 孤独のグルメ アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)
らしくなさと強引な展開に違和感
2012 年から放送されている漫画原作のグルメドキュメンタリードラマの映画版である。本ドラマが初主演となる松重豊が、映画では自ら脚本と監督まで兼務している。物語はドラマシリーズとの直接的な関連はないので、ドラマを観ていなくても楽しめる作りになっていたが、映画ということで力が入ったのか、ストーリーの進め方が無駄に大規模で、かなり強引だった。
ドラマのストーリー構成は基本的に、輸入雑貨の貿易を生業とするサラリーマン井の頭五郎が顧客の元へ向かうシーンから始まり、顧客との商談中に映像が切り替わってお決まりのナレーションが入り、タイトルテロップ、そのエピソードのメインメニュー映像が入る。本作でもそれは踏襲されていたが、舞台はいきなりパリである。「グランメゾン パリ」に対抗したのかと言いたくなるほどで、必ずしも必要な設定ではなかった。
食事シーンがメインで、他のストーリーは取ってつけた程度というのがこのテレビシリーズの持ち味だったが、本作の五郎はまるで別人のような言動を平然と行なっている。最も重視する食事を、パリに向かう機内で2回飛ばすほど爆睡する。この辺りから違和感が半端なかった。
パリ在住の知人から依頼を受けて、老人の記憶に残るスープを再現しようとする話が発端である。料理が本業でもない五郎には重過ぎる依頼だと思うし、そもそも食材も味付けもハッキリしないのでは再現しようがない話である。名前の「いっちゃん汁」から辿ろうにも、その名前が家族以外知り得ないということが後に判明するのだが、そんな話は当然最初にしておくべきである。無駄な尺伸ばしにしか思えなかった。
食材を推理した五郎は、依頼主の生まれ故郷である長崎の五島列島を訪れて食材探しをするのだが、一つの島に上陸後に次の島へのフェリーに乗り遅れたため、目と鼻の先にある隣の島へスタンドアップ パドルボード(SUP)でスーツ姿のまま渡ろうとするというのも強引である。道具は無人の店から黙って借用したもので、代金をクリアファイルに入れて置いてきてはいるが、間もなく台風が接近して暴風雨で飛ばされてしまっているので「使用窃盗」状態になっている。五郎も遭難して見知らぬ島の海岸で目を覚ますというのだが、それが丁国の見知らぬ島だというのにまた驚かされた。五島列島から少なくとも 150km ほどは離れており、溺死せずに漂着することなどまずあり得ない。
それにしても、パリに始まって丁国人が重要な役割を持つというのは「グランメゾン パリ」と似たような仕立てになっているが、果たして偶然であろうか?やはり制作資金を援助した丁国がストーリーに口出ししたのではないかという疑念が晴れなかった。
長崎で評判だったラーメン屋がコロナ禍で経営難に陥って店主が荒んでしまったという話も大仰で、あんな態度の店主の店が存続できるはずはないし、その後の典型的ツンデレの流れにも深みが感じられなかった。オダギリジョーの演技は良かったのだが、どうにもやり過ぎな展開が目に余る。キノコが食えるかどうかよく確かめもせずに食べてしまうのもいつもの五郎らしくない。映画ポスターのキャッチコピーに「どうした?五郎」とあるのだが、それはこっちの台詞である。
ただ、劇中劇で遠藤憲一が演じる「孤独のグルメ」のパロディが登場するのは笑えた。名前が善福寺六郎というのもよく出来ている。五郎がエキストラ出演しているのもご愛嬌である。
脳内ナレーション付きで食べ物を美味しそうに食べるシーンは流石に見せ方が上手く、美味しいものを食べる喜びの描写は「グランメゾン パリ」を大きく引き離していたが、総合的に見て、やはり話を無理にスケールアップしたために原作世界のテイストを失ってしまっていたのが残念でならなかった。
(映像5+脚本3+役者4+音楽2+演出4)×4= 72 点。