「いいじゃないか」劇映画 孤独のグルメ ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)
いいじゃないか
「腹が...減った」
久住昌之原作・谷口ジロー画のグルメ漫画、深夜ドラマとしても10のテレビシリーズを数える人気作が何故か映画化。監督はまさかの松重豊。
輸入雑貨商・井之頭五郎(演:松重豊)は亡き友人の娘である千秋(演:杏)に絵画を届けるためフランス・パリを訪れる。無事に納品を済ませた五郎だったが、千秋の祖父(演:塩見三省)から思わぬ依頼を受ける。それは、彼が子供の頃、生まれ育った長崎・五島列島で食べた母の味「いっちゃん汁」をもう一度食べたいというものだった。食材もぼんやりとしか分からず調理法も不明、つい勢いで引き受けてしまった五郎はすぐさま五島に飛び、「いっちゃん汁」の謎を探るが...。
うおォん!いいじゃないか。これだよこれ。松重豊の言葉を借りるならば「中年男がひたすらメシを食い続けるだけのドラマの何が面白いのか?」、しかも2時間近く尺があるにも関わらず、開始15分で既にフレンチをパクついているわけで、「飛ばし過ぎでは?」と不安になったが、杞憂に終わった。
もうドラマで実績を積み重ねてきているので、「方程式を崩さずに最後まで続けられるか」だけがポイントであり、いつもの展開がむしろ「実家のような安心感」と言ってよかった。ただ、フランスからスタートということもあってか、五郎さんいつもよりも食い方が大人しかったような感じがした。品目としては大分食べているのだが、行儀がよい。もっと豪快に食べてもらってもよかったかなと思う。それにせっかくなら"ビールクズ"久住もどこかにチラッと出てくればよかったのに。あと余談だけど塩見三省大丈夫か?あれ演技なのか?演技だよな?演技だったらいいけれど...。
「いっちゃん汁」再現のために手を貸すラーメン屋のワケあり店主とその元妻、さらにTV局のプロデューサーなど、様々な人間を巻き込んだドラマは(やや尻切れトンボ感はあったけれど)ホロリとさせてくれた。井之頭五郎、いい仕事をしてくれた...。途中のドラマに登場するゲストに死ぬほど笑った。なのでできれば情報封鎖のうえで観てもらいたい。
時間や社会に囚われず、孤独に空腹を満たすとき、束の間人は自分勝手になり自由になる。誰にも邪魔されず、気を遣わず物を食べるという孤高の行為。この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒しといえるのである。
明日は浅草かぁ...何食おうかな。