「鮮烈な映像、ずっこける脚本」HAPPYEND milouさんの映画レビュー(感想・評価)
鮮烈な映像、ずっこける脚本
舌を巻く見事なショットがこれでもかと出てくる作品で、映像作家としてのこの監督の才能は明らかですね。オープニングすぐの、駆ける高校生たちと併走する夜の電車、空っぽのガレージで大きく揺れる照明と壁に映る少年たちの影、などなど…。音楽も編集も秀逸です。
しかし脚本がずっこける。物語上の大きな難点は三つ。
1)フィクションが現実の力に追いついていない。大震災・監視社会・外国人差別は現代日本が抱えている差し迫った課題で、それを都合よく近未来SFに改変した物語を、なんでいま見せられているのか。
2)日本社会と高校生活のリンクの希薄さ。いやリンクさせてるぞと思っているかもしれないが、民主主義をおびやかす現代日本の危機…と始まった映画が、途中から「高校で校長と対決する意識高い生徒たち」の話になって収束してしまう。緊急事態法制どこ行った?
3)登場人物の掘り下げの浅さ。とくに主役の男性2人。別に政治なんか興味ないよという男子と、在日コリアンという出自を背負って政治に注力してゆく男子の、ふたりの友情がこの映画のひとつの軸になっています。ちょこちょこ2人の背景は語られはするけども、結局2人がどんな葛藤をもっているかは、ほわわんとかるーくしか描かれないのです。
このあたりを真剣に突き詰めて考えていないから、友情も政治も、ふわっと曖昧に仄めかされるだけで、リアルな痛みを伴わない。だからだんだん文科省推薦の道徳映画めいてくるんですよね。
申し訳ないけど、これは政治・社会についての監督の考えが浅いからとしか言いようがない。なんかいろいろ社会問題が言及されても、そのどれもが深まっていかない。世の中で「政治」「社会」と名指しされているものを名指しされているとおりの形で取り込むのみで、自分の身体を賭けて対決して自分自身の洞察に到達するという経験を経ていない。要するに薄っぺらい。
そんなわけで、映像のみごとさと浅い話の取り合わせが不思議な作品で、思いきり好意的にいえば「今後の大きな可能性を感じさせる」ってことですね。