「鮮烈な映像、ずっこける脚本」HAPPYEND milouさんの映画レビュー(感想・評価)
鮮烈な映像、ずっこける脚本
舌を巻く見事なショットがこれでもかと出てくる作品で、映像作家としてのこの監督の才能は明らかですね。オープニングすぐの、駆ける高校生たちと併走する夜の電車、空っぽのガレージで大きく揺れる照明と壁に映る少年たちの影、などなど…。音楽も編集も秀逸です。
しかし脚本がずっこける。大震災・監視社会・外国人差別は現代日本が抱えている差し迫った課題で、それを都合よく近未来SFに改変した物語を、なんでいま見せられるのか。そこを真剣に突き詰めて考えていないから、友情も政治も、ふわっと曖昧に仄めかされるだけで、リアルな痛みを伴わない。だからだんだん文科省推薦の道徳映画めいてくるのです。改憲や緊急事態法制がテーマとして提出されたのに、それはほっぽらかしで高校生が校長と直談判して校則を変えて成功!みたいに話が収束してしまう。
申し訳ないけど、これは政治・社会についての監督の考えが浅いからとしか言いようがない。なんかいろいろ社会問題が言及されても、そのどれもが深まっていかない。世の中で「政治」「社会」と名指しされているものを名指しされているとおりの形で取り込むのみで、自分の身体を賭けて対決して自分自身の洞察に到達するという経験を経ていない。要するに薄っぺらい。
そんなわけで、映像のみごとさと浅い話の取り合わせが不思議な作品で、思いきり好意的にいえば「今後の大きな可能性を感じさせる」ってことですね。
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