「成長の過程」HAPPYEND おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
成長の過程
予告から青春時代にスポットを当てた熱いドラマを期待して、公開2日目に鑑賞してきました。知らない若手俳優ばかりでしたが、まあまあ楽しめました。
ストーリーは、遠くない未来の日本、高校の音楽研究部の5人組でつるんでいたユウタとコウが、校長の愛車にイタズラしたことから学校にAI監視システムが導入され、高校生活にますます息苦しさを感じるようになる中、それを無視して振る舞う者、反発して改革を試みる者、我慢して黙って従う者など、それぞれが自分の生き方を考えるようになり、ユウタとコウの関係もしだいに変化していくというもの。
誰かの作った枠組みに嵌められ、縛られるなんて、誰だって拒みたくなります。ましてや、人生経験が浅く、自分を中心とした狭い範囲でしか物事を考えられない若者ならなおさらです。さまざまことに不満を抱き、気に入らないから従わず、かといってその仕組みを変えてやろうという気概もなく、自分は間違っていないと反発するばかり。そして、自分の行動に責任をもたず、その尻拭いは全て親が負うことになります。自分も若い頃はきっとそうでしたが、本作のユウタたちに共感しかねる今となっては、自分もつまらない大人側にいるのだと気づかされます。
しかし、大人になった今だからこそ、若い頃の子どもじみたイタズラも、大人と本気で一戦交えることも、その後の成長になんらかの形で寄与するのではないかと思えます。自身のイタズラが大事件に発展したこと、外国にルーツをもつというだけで容疑をかけられたこと、声を上げなければ何も変えられないこと、異なる立場からの視点もあること、同世代でも自分とは異なる価値観をもつ者がいること、未成年の自分には責任が取れないこと、親は全力で自分を支えてくれていること等、自分の生き方を考える上でどれも大切なことばかりです。ユウタやコウたちにとって、今回の事件が大きな経験として心に深く刻まれ、今の自分を見つめ直すきっかけになったと思いたいです。そう思うと、高校3年間はとても貴重な時間であり、刹那的に遊んでいるように見える瞬間も、その時にしか味わえない貴重な経験をしているのかもしれません。“人生に無駄はない”と私はいつも思っています。
あと、本作では地震が一つのキーとなっているように感じ、かつての関東大震災朝鮮人虐殺事件を思い出しました。非常時は疑心暗鬼となり、人の本性が表れるように思います。本作においては、愛車にイタズラされた校長の人間性を疑われるような言動、それを受けたコウの怒り、監視システム導入時の生徒たちの動揺などに、似たようなものを感じます。でもこれは、物事を考え直し、互いに理解し合うためのよい機会になるようにも思います。前日に観た「シビル・ウォー アメリカ最後の日」でも同様の思いをもちました。そういう意味では、本作もまた、若者を理解するためのきっかけになればよいのではないかと思います。不安からいたずらに敵意を向けたり、否定したりすることなく、理解しあうために歩み寄ることが大切なのではないでしょうか。
主演は栗原颯人さんと日高由起刀さんで、ともにオーディションで抜擢された新人らしいですが、スクリーンデビューとは思えないほどの自然体の演技に魅了されます。脇を固めるのは、林裕太さん、祷キララさん、中島歩さん、渡辺真起子さん、佐野史郎さんら。言うまでもないですが、佐野史郎さんの嫌味な校長役は秀逸です。
共感ありがとうございます。
多様化したクラス、でもヘイトは確かに存在してる、米国在住の作り手らしいなと思います。
齢を経るとあの時はああだったと解ってきますね。