「善悪の境界線のない世界の、唯一無二の物語!」ウィキッド ふたりの魔女 ダリアさんの映画レビュー(感想・評価)
善悪の境界線のない世界の、唯一無二の物語!
最初に通常スクリーン、2回目にTCX、3回目にIMAXで鑑賞。
この物語のキャラクターは、確かにエルファバ以外は
100%の純度で”善”の人はいない。
でも、グリンダは「ハイスクールミュージカル」のシャーペイのようで
金持ちお嬢さまで自意識過剰&承認要求マックスのおばかなブロンドという
いわゆる観客の笑いを誘う役どころ。
「ポピュラー」を歌い上げるときの所作や表情何をとっても
10歳のときに初めて舞台版「ウィキッド」を見て以来
ウィキッドを自分で演じることを夢見てきて
これまでもアメリカの番組で「Wizard and I」や「dyfing gravity」を歌ったりもして
ウィキッド愛あふれるアリアナの、キャラクターへ魂を乗り移させたと思うばかりのコメディエンヌになりきった熱演から
目が離せない。
この撮影のために、歌手活動、ツアー、レコーディング、すべてを中止して
撮影だけに没頭しただけの熱量はある。
またエルファバは、父の愛、母の愛、妹からの愛、そして自分を求めてくれると思っていたウィザードからのパートナーシップ愛、モリブル先生からの子弟愛…そしてそっと心を寄せるフィエロからの愛…グリンダとの友愛…これまでの人生で、あらゆる場面で求め続けていていた愛をすべて断ち切っていかざるを得ない状況を、丁寧に描ききり
ラストの「Difying gravity」でその思いを激しく歌いあげる。
「愛を失うことを恐れて続けてきたけれど、すでに失っていた。
それが本当に愛なら、代償は大きすぎる。
私がもし一人で飛び立つとしたら、少なくとも自由」
そのセリフは、劇場の圧倒的な大画面と音圧を前に
涙が勝手にあふれて止まらなかった。(3度目のIMAXでも)
ミュージカル映画は、もともと録音しておいた歌に
あとで演じながら口パクするのが当たり前だが
このウィキッドは現場で歌ってそれを録音している。
「レ・ミゼラブル」もその手法だったが
ウィキッドは、ワイヤーアクションありのエルファバが
空中に吊り上げられ、ぶんぶん回転させられたり高速上昇や高速落下をしながら歌っているという点で、スゴさが桁違い。
シンシア・エリヴォは毎朝、ジムのルームランナーで
走り込みしながら歌うというトレーニングをこなしてから撮影に臨んでいたらしく
それだけの熱量が見てるこちらにも伝わって、感動せずにはいられない。
もちろん彼女もアリアナ同様、23歳で舞台版を見て以来
ずっと特別な作品だったと語っている。
やはり、ディズニーの白雪姫の主演女優が、アニメの白雪姫へのリスペクトがないと批判され続けていたのと真反対で、そんなに好きな作品に参加できてさぞ気合が入ってるんだろうなって、見てる側も安心して期待して見られる。
さて、前置きが長すぎだったが
タイトルに書いたようにこの作品では善悪の境界線はあいまいだ。
フィエロも最初は本を踏んだりするやんちゃ坊主だったが
動物好きであり、ライオン事件でエルファバの優しい心にふれて
グリンダよりエルファバに惹かれていく…
そしてエルファバも、フィエロの心の奥は
本当はやんちゃではなく、せつないものが潜んでるのを見抜き
彼に惹かれていく(その時以降のフィエロはもはや本を踏むような男ではなくなる)
そんな心の変遷を見ると
彼は決してグリンダ側の人間ではない。悪ではないのだ。
ラストで、エルファバが邪悪な泥棒だとアナウンスが流れ、
どうしちゃったのという顔をしたフィエロは、
愛馬に乗って学校を飛び出した。パート2で彼はどんな行動に出るのかも気になるところ。
「オズの魔法使い」は100年前に作られたものだが
その作者とはまったくの別人が、1900年代に作ったエルファバたちの前日譚が「ウィキッド」。
執筆された時代が、湾岸戦争や人種差別といったアメリカが抱えている「正義とはなんぞや」「大義名分に生きるべきか否か」という問題にあふれている時代であったから
作家も物語のキャラクターにそうした問題を読者に投げかけるべく落とし込み、大人向けの複雑なストーリーにしているらしい。
リアルな社会問題をリアルな人間心理で描いてるので
”長いものにまかれろ”、”寄らば大樹の陰”という思考で我々が普段から生きているように
モリブル先生の抱擁にこたえたグリンダも批判はできないし
モリブルとて、心の中では、自分がグリムリーを読みこなせるほどの魔法使いでない以上
オズの魔法使いの手下になるしか生きる道はないという思考ではないとはいいきれない。
グリンダのとりまきの生徒たちとて同じだろう。
みなそうやって、自分であることを押し殺して
いかに世を渡るかで必死なのだ。仲間外れは怖いのだ。
そんな誰もが痛感してることなのに、この映画をみて「悪者ばっかり」という短絡的な判断はなしだろう。
ちなみにこの小説は、デミ・ムーアが映画化を望んで映画化権を取得しユニバーサルが制作することになってたらしいですよ。
それが、スティーブンシュワルツがどうしても曲をつけてミュージカルにしたいと
デミやユニバーサルに直談判して、ミュージカルにする権利を得たそう。
結果としてこの舞台版は100以上の受賞歴がある、
世界中でもロングラン上演され続けている(日本でも劇団四季がやっている)愛されまくってる舞台となった。
そして満を持して、映画化…それも、もともとただの実写映画で作る予定だったユニバーサルが制作する奇縁で映画化されたのだ。
舞台版の内容に、小説(上下巻ある長編小説)のシーンをさらに追加して
舞台版では割愛され過ぎた内容を丁寧に描き、過不足ない150分にまとまった。
この映画は、1990年代のアメリカ社会の世相と、人間の闇心理…といった
重くなりがちな内容を、天才シュワルツの素晴らしい楽曲でライトなムードに昇華させた
素晴らしい作品である。
初回よりも2回目に鑑賞した時のほうが短く感じ、体感60分くらいに感じたし
さらに3回目では体感30分くらいに感じた。映画はもう500本以上は見てきたけれど
こんなに劇場でリピートしたいと思った映画で、さらに見るたびに体感時間があまりにも面白くてあっという間に感じるような魅力的な映画は初めてだ。
未見の人は、ぜひIMAXやTCXなど大画面&大音量で、オズの世界に没入して涙腺をぶっこわされに行ってほしい。
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