「オズの国が行きつく先は現在の不寛容な世界」ウィキッド ふたりの魔女 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
オズの国が行きつく先は現在の不寛容な世界
オズの国はみんなが歌って踊れる自由な夢の国、人は肌の色に関係なく共に暮らし、また動物も人と同じように言葉を話し分け隔てなく暮らしていました。
でもグリーンの肌を持つエルファバには皆がなぜか驚き彼女を忌み嫌います。まるで邪悪な存在でもあるかのように。彼女は実の親からも忌み嫌われる存在でした、ただ肌がグリーンというだけで。
動物と人間が分け隔てなく暮らすオズの国ですが昔は動物が檻に入れられた時代がありました。飢饉が訪れて人々はその災厄をもたらした犯人を欲したために一番人間に遠い種族の動物たちが悪者にされました。でもそれは過去のことであり今は平和に暮らしています。
そんな国なのに、皆がエルファバを受け入れようとしません。彼女の肌が白色でもなく黒色でもなく黄色でもなかったから。
一見、黄色人種も黒人も動物も分け隔てなく暮らすオズの国ですが、その偽善が次第に剝がれ落ちてきます。
それは動物たちへの排除から始まります。これはオズの国を支配するオズの魔法使いの仕業でした。彼には本当は魔法の力はありません。彼は国の支配を続けるために自分への権威が揺らぐことを恐れました。自分には偽物の権威以外何もないことを知られるのを恐れた彼は敵を作り人々の関心をそちらに向けさせます。そのためには本当に魔力を持つエルファバが必要だったのです。
動物たちを敵に見立てて彼らを監視するための空飛ぶスパイをエルファバに作らせます。まるでテロ対策で国民を大規模監視するためのエクスキースコアシステムのように。エルファバはかつて愛国心に燃えたスノーデンといったところでしょうか。
エルファバは彼の魂胆を知り、彼と戦うことを決意します。自分に逆らう彼女を敵だと名指しする魔法使い。「正義」の国に対抗する「テロリスト」がここに誕生したのでした。自分たちに敵対する相手はテロリストだと言えば国民はすべて国に従います。彼らにとってテロリストはただの「悪」でしかないからです。
オズの国を支配する魔法使いはまさに世界一の軍事力と経済力を持つアメリカ大統領の誰かさん。真っ先に敵とみなされ排除される動物たちは移民あるいはムスリムの人々。
アメリカもかつては自由で寛容な国と言われましたが、それも今は昔の話。指導者のチャイナウィルスという一声でアジアンヘイトが巻き起こり、あなたたちの生活が苦しいのは移民のせいだと言えば移民排斥運動が巻き起こります。
何の能力もない大統領はただ権威を笠に着て敵を作り出しては自分への支持につなげます。かつてはヒトラーがそうしたように。そしてオズの国もそうなりつつありました。
様々な人種が一見分け隔てなく暮らすオズの国はまさに西側諸国をはじめとする現在の世界の姿を表しています。様々な人種が平穏に暮らせているようで、いったんコロナ危機や経済破綻が起これば真っ先に移民や有色人種が攻撃の対象になる。
かつて反ナチ運動組織の指導者マルティン・ニーメラーの遺した言葉をアレンジすれば、オズの国が動物たちを連れ去ったとき私は声を上げなかった。私は動物ではなかったから。彼らがアジア人を牢獄に入れたとき私は声を上げなかった。私はアジア人ではなかったから。彼らが黒人を連れ去ったとき私は声を上げなかった。私は黒人ではなかったから。彼らが私を連れ去ろうとしたとき、私のために声を上げる者は誰一人残っていなかった。
敵にした動物がいなくなれば、次は黄色人種、その次は黒人、そんな風に敵を見つけては排除するということが延々と続けば、いずれは自分が排除される時が来るのかもしれません。
アメリカも誰かさんのせいでこうなりつつあるのでしょうか。多様性を否定することは自滅につながる。閉鎖的な社会はイノベーションも起きず衰退してゆく。アメリカの大手IT企業の創始者たちはイーロン・マスクをはじめ移民ばかり、外部から新鮮な血を受け入れて発展してきたからこそ今のアメリカがあるというのに。
マリアナ・グランデが俗物キャラを見事に演じていてエルファバ役のシンシア・エリボを食ってましたね。嫌味な役を楽しんで演じていて見ていて気持ちいいくらい。テーマがわかりやす過ぎるのと上映時間が長過ぎるのがマイナスポイントですが親御さんはお子さんを連れて見に行き本作を通して今の世界の状況について語り合うのがいいかと思われます。
コメントありがとうございます。グリンダは大衆、ふつうの人、だから「歴史」の授業で「昔の話つまんなーい」!過去を知らない者は現在と未来に目を閉ざす者じゃ!グリンダの役回り難しい!よくやった!睫毛バサバサで上野毛獅子舞でピンクだらけの服でお馬鹿さんで!えらい!
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。