配信開始日 2024年11月22日

「ナチスの爆撃で瓦礫と化していくロンドンのリアル」ブリッツ ロンドン大空襲 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ナチスの爆撃で瓦礫と化していくロンドンのリアル

2024年11月30日
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スティーブ・マックイーンの最新作は黒人監督作品として初のアカデミー作品賞に輝いた『それでも夜は明ける』('13年)と同じロードムービーに分類されると思うが、こちらはよりオーソドックスなタッチが目立つ。第二次大戦下、ナチスによるロンドン空襲を恐れた母親の考えで田舎に疎開することになった息子が、見知らぬ里親に預けられることを恐れてロンドンに戻ろうとする道程を、ドラマチックになぞっていく。映画は、帰ろうとする息子と、戦時下のロンドンで懸命に生きようとする母親、両者の物語をカットバックで描く形式だ。

所々に見られる戦争のリアルな描写は、ベースになった著書の原作者で、映画のコンサルタントも務めたジョシュ・レヴィンの実体験に基づいているとか。主人公の少年、ジョージの人物像は実際に疎開を体験した100 人あまりの少年たちの集合体で、他にも、ナチスによるイギリス爆撃の矢面に立たされた首都、ロンドンが瓦礫と化していく様子や、窃盗の横行、シェルターとして使われる地下鉄、爆撃によって破壊された下水道から流れ出た洪水に流されていく市民、軍需工場に駆り出される女性たち、等、あまり見たことがないロンドンの惨状が詳らかにされていく。

シングルマザーの母親、リタを演じるシアーシャ・ローナンのカメラを凝視するような演技に、またもオスカーの期待がかかる本作は、たった今も戦争によって引き裂かれた母と子供たちに想いを寄せている。配信作品だが見るべき1本だ。

清藤秀人