「原作の世界観を見事にアニメ化して見せた大傑作」劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来 アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 原作の世界観を見事にアニメ化して見せた大傑作

2025年7月24日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2020 年に公開されて日本アニメ映画史上歴代最高の興収益を挙げた「無限列車編」から5年、遂に無限城編が公開された。無限列車編が映画の尺に丁度良かったのに対し、無限城編は遥かに長尺の物語となっているため、1本の映画には収まるまいと思っていたら、やはり複数の章立てになるようだ。この第一章の内容は、主に我妻善逸と兄弟子の獪岳(かいがく)、胡蝶しのぶと上弦の弐の童磨、竈門炭治郎および冨岡義勇と上弦の参の猗窩座との対決が見どころになっている。

まず、無限城の内部表現の見事さに目を奪われた。コマ割りで描けば良いコミックと違って、アニメの場合は建物の連続性や空間配置などに誤魔化しが効かず、緻密で膨大な 3D データの入力が不可欠となる。あそこまでリアルな空間を表現するには、一体どれほどのデータ量になるのかと呆然とさせられた。あの空間を見せて貰っただけで、既に十分に代金の元が取れたような気になった。しかも、視点が常に動いていてパンしたりしているので、同じシーンの繰り返しでは対応できず、常に新たなコマの追加が求められることになり、担当スタッフはさぞ大変だっただろうと苦労が偲ばれた。当初の見積もりでは、レンダリングだけでも3年半かかるということだったらしいが、ソフトの改良によって劇的に短縮できたそうである。

脚本は、無限列車編同様に、原作の台詞が全く省略や追加なしに使われているところに惚れ惚れした。原作者の言葉へのこだわりに多大な敬意を払う制作態度には、深く敬服を禁じ得なかった。台詞が変わっていないということは、原作漫画を読んだ人なら、次に画面で何が起こるのか全て分かっていることになるのだが、それでもこれだけ観る者が魅了されている理由は、原作のストーリーの良さを最大限に活かすアニメの品質の高さに他なるまい。

息を呑むダイナミックな戦闘シーンも魅力的である。コミックではアクションはあくまで読者の想像に委ねられている部分があるが、アニメでは全て見せる必要がある。その見せ方が、読者の想像を遥かに超えていることが、アニメを見る醍醐味なのである。技を繰り出す時の人物の動きも非常に自然であるばかりか、本来見えるはずのない特殊効果も素晴らしいリアリティとスピードで見せてくれるので飽きることがない。

アニメとコミックの大きな違いは音が聞こえるという点でもある。特に、登場人物の声は重要で、イメージと違う声が聞こえてきたりすると途端にガッカリさせられたりするものだが、このシリーズについてはまずその心配はない。炭治郎をはじめとする鬼殺隊のレギュラーメンバーもさることながら、今作では童磨を演じた宮野真守と猗窩座役の石田彰の演技の素晴らしさは特筆に値する。童磨の人当たりの柔らかさと残忍さが同居する様子や、猗窩座のひたむきさに加えて、感情に揺れる時の演技の幅の広さに痺れた。

無限列車編も今作も、物語上大きな存在だった人物が物語から退場するところに大きな感動を覚えるのだが、無限列車編の煉獄杏寿郎が猗窩座の誘いを断り続けて、柱として無念の最期を迎えるところが観る者の涙を搾り取ったのに比べると、今作の感動の種類はやや異なる。この原作では、鬼の側にも汲むべき事情があり、斃した鬼に同情して炭治郎が涙するような場面もあるのが物語の深みを増しているのだが、これは、鬼畜米英という教育を徹底されながら、倒した敵兵を手厚く葬って墓標まで立ててやっていた旧日本軍兵士に通じるものがある。今作では、猗窩座が何故強さを求めて弱いものを憎むのかという話が展開されるが、猗窩座の場合は手段が目的化してしまっており、際限なく道を極めても満足は得られない地獄に足を踏み入れてしまっている。まるで、何のために総理になったのかも自覚せず、国民から見捨てられても地位にしがみつくばかりの何もかも見苦しいどこかのデブのようである。自分を取り戻した猗窩座が見せた行動は、同情するに余りあるものであり、どこかの総理にも是非見習わせたいものだった。

それぞれの登場人物の人となりを深く描いて見せていた無限列車編に比べて、無限城編は物語の進行に主眼が置かれていて、やや物足りないところもあったが、今後の展開に期待したいところである。音楽も無限列車編に劣らぬ力作だったが、「炎」のように、それを聴いただけで涙が込み上げるというような曲はなかったのが惜しまれる。それでも、原作の持つ魅力を圧倒的な画力と音楽で提供しているこの映画は大変な傑作である。続編が待ち遠しい。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4=100 点。

アラ古希
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。