「オーソドックスに見えて、人間を深く理解した優れた秀作でした!」アイミタガイ komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
オーソドックスに見えて、人間を深く理解した優れた秀作でした!
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、今作を大変心動かされ面白く観ました。
私がこの映画『アイミタガイ』で初めに優れているな、と思われたのは、主人公・秋村梓(黒木華さん/中学時代:近藤華さん)が、叔母でホームヘルパーの稲垣範子(安藤玉恵さん)の顧客である小倉こみち(草笛光子さん)に、秋村梓の勤めるブライダル会社が行う金婚式のピアノ演奏を頼む場面です。
90歳を超える小倉こみちは、戦時中に自身のピアノで当時の同世代の若者を戦地に送ってしまった傷を抱えていることをこの時、秋村梓と稲垣範子に伝えます。
なので本来であれば、ピアノにまつわる戦争体験の話を聞いてしまえば、普通であれば引かざるを得ない場面だとは思われます。
ところが秋村梓は、中学生の時に、親友の郷田叶海(藤間爽子さん/中学時代:白鳥玉季さん)に連れられて、当時の小倉こみちのピアノ演奏を聴いていた話をします。
そして、小倉こみちの戦時中の想いに踏み込んで、彼女に金婚式でのピアノ演奏を依頼するのです。
しかし小倉こみちは、(一旦は)この秋村梓の依頼を断ります。
私がこの場面が優れていると思われたのは、誠実さありながらの相手の心の中に踏み込む姿勢と、一方で、踏み込まれた相手の自然な心としての拒否する姿勢の描き方でした。
この相手への誠実ながらの踏み込みと、一方での自然な相手からの拒否は、人間の関係性を深いところで理解している描写になっていると思われました。
なぜなら、例えどんなに相手が誠実に想いを伝えていても、誰もが踏み込まれたくない自身の想いを持っていて、相手をそれで拒否をするのは自然であると思われるからです。
加えて、とはいえ相手への踏み込みなしに人との関係性をきちんと構築するのも困難だと、一方では思われるのです。
この誠実な踏み込みと自然な(一旦の)拒否による関係性の構築は、この作品に一貫して流れていると思われました。
例えば、主人公・秋村梓の恋人である小山澄人(中村蒼さん)が、秋村梓に(結婚につなげるための)指輪を店に見に行こうという踏み込んだ提案をしますが、秋村梓は両親の離婚の経験から結婚へのわだかまりがあり小山澄人のこの提案を(一旦は)拒否する、という場面もありました。
(その後、この時の秋村梓による小山澄人の提案の一旦の拒否は、美しいラストにつながって行きます。)
そして、この相手に踏み込んで行く姿勢は、主人公・秋村梓の親友の(映画の冒頭で事故で無くなった)郷田叶海が、2人が中学生の時に秋村梓に踏み込んで彼女をいじめから救う場面から、時系列的には始まっていたと思われます。
郷田叶海の、誠実さを持ちながら被写体に踏み込んで行くカメラマンとしての姿勢も、映画の根底描写として一貫していたと思われます。
この映画『アイミタガイ』は、一見するとオーソドックスな設定とストーリー展開ではありますし、円環的な関係性の脚本でもあるのですが、個人的には単調にも作為的にも一切感じませんでした。
その理由は、誠実さある踏み込みと、自然な(一旦の)拒否と、さらに進んだ人間関係の構築という、深い人間に対する理解ある作品だったからだろうと、思われました。
郷田叶海の父・郷田優作を演じた田口トモロヲさん、母・郷田朋子を演じた西田尚美さん、主人公・秋村梓の(両親が離婚した)父方の祖母・綾子を演じた風吹ジュンさんなども含めて、どの演者の皆さんも素晴らしい関係性ある演技だったと思われました。
(劇的な展開というより積み重ねる作風で、一方で傑作評価は難しい面もありますが)
今作は元々、亡くなった佐々部清 監督が準備していた映画だと後で知りましたが、なるほど佐々部清 監督らしい優しさあふれる映画だと思われました。
そしてそこに、草野翔吾 監督による現代的な新しい風が吹き込んでいる、優しさだけでない人間理解の深さと的確さある、優れた秀作だったと、僭越ながら思わされました。