「いい人ばかりの物語」アイミタガイ サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
いい人ばかりの物語
真面目で優等生のような、作られたいい映画って雰囲気が予告から伝わってきて、全くと言っていいほど期待していなかったんだけど、これはやられた。最後は思わず泣きそうになってしまうほど。
「仕事柄、本を読むことが多いんですが、いい人たちばかりが出ている物語は嘘くさいなと思っていました。でも、今はそういうのを信じたいです。」鑑賞前に抱いていたその不信感、そして映画前半でも感じていた違和感を一気に払拭させてくれた、田口トモロヲ演じる父の言葉。この言葉があるから、この映画は素晴らしいものになっている。
相身互い。その言葉通り、ある人の些細な思いやりが誰かを救い、そしてまた新たな思いやりが起きる。その優しさの連鎖が巡り巡って、またある人の元に優しさが帰ってくる。日本人が古来から信じているその精神を、群青劇として見事に映像化した本作。綺麗すぎるなと思う部分もあるけど、この精神、心持ちは日本人として大切にしたいなと感じた。
最近はいまの日本社会に対して異議を申し立てるような映画が多く、自分自身も世の中に強い不満を持っているからそういった映画を好んでいたんだけど、こういう状況だからこそ、本作の人の温かさに触れるような映画もまた心に留めておきたいし、多くの人に見てもらうべきだと思う。
失礼な事だと承知の上で言うけど、主演級のキャストが居ないこともあって絵に派手さがない。それは演出的な問題もあるだろうし、敢えてそうしているとも捉えられるけど、それでもやっぱり地味で深く記憶に残りにくい映画だった。前半は特にパッとしないな〜と感じてしまい、なかなかストーリーに乗れない自分がいた。せっかく映画館で見るのなら映像での見応えには重きを置きたいし、人の温かさに触れるという面で似ている「ぼくが生きてる、ふたつの世界」はその点、作品の色合いや構図にこだわりを感じ、最初から最後まで見てて飽きなかったなと。
ただ、後半からの伏線回収、絵変わりはとてもよく出来ていて、前半との対比にはすごく感動させられた。まさに、〈相身互い〉という言葉に合った物語の展開。巡り巡って自分の元に戻ってくる思いやりは、他には変え難い美しさがあったし、一連の流れがよく出来すぎていて作り物っぽいなと一瞬思ったけど、今日もまたこの映画のような優しさの連鎖がどこかで起きているんじゃないかと、田口トモロヲの前述の言葉と最後に起きた優しさで、すごく納得させられたし、人を想うってやっぱり尊くていいものだな〜と感じた。そして、人生何があるか分からないからこそ、自分のことも、周りの人のことも大事にしたいなと思わされた。
黒木華が歌う夜明けのマイウェイも良かった。心に染み渡る。。。物語にものすごい相乗効果を与えてくれる。。。
いい人たちばかりで、世の中こうは上手くいかないだろうと思いつつも、それでもやっぱり〈相身互い〉の気持ちを信じたい。そう強く思えるとてもいい映画でした。見ず知らずの人に優しくするのは少し難しいかもしれないから、まず周りの人から。優しいの連鎖。いいね。