「叶海、ちひろさん、メリー・ポピンズ」アイミタガイ グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
叶海、ちひろさん、メリー・ポピンズ
日本映画の群像劇としては、自分が見た中ではベスト級の作品。
思い出せる中では伊坂幸太郎さん原作、今泉力哉監督の『アイネクライネナハトムジーク』以来の感動と涙をいただきました。
冷静に振り返ると、なんといっても叶海さんの人柄と感受性がすべての原点。
決して他の人には真似ができないほど何かの才能が際立っているというわけではないけれど、どんな人間にも分け隔てなく率直で誠実な人。
叶海さんの人柄は黒木華さん演じる梓や両親や福祉施設の子供たちとの交流を通じて間接的に描かれるが、そこにいるのはいつも自分のことは二の次で相手のことばかり考えている叶海なのです。
と、ここまで書いて急に私の頭に降ってきたのがちひろさん。
覚えてますか?
有村架純さん主演の『ちひろさん』
自分だって壮絶な過去(映画では具体的には描かれない)を持っているのに、軽やかに、だけどしっかりと出会った人たちに自己肯定感をもたらして去って行くメリー・ポピンズのような人でした。
もちろんメリー・ポピンズのような魔法は現実には使えないけれど、自分にはできないことを軽やかにやってしまう(たとえば、ちょっとした機転でイジメから救ってくれるようなこと)人っていますよね。
ちひろさんがそうでした。
家族関係で悩む高校生のオカジに向かって、
「家族揃っての食事が一番美味しい、なんていう人がいるけど、ひとりで食べたって美味しい時は美味しい」と当たり前のはずのことを気付かせてくれるのです。
友だちを信頼して無防備に後ろに倒れる叶海。
突然手を取って駆け出し、新しい世界へ導いてくれる叶海。
いつも自分以外の誰かにレンズを向けて、その誰かの輝く瞬間を捉え続けた叶海。
風向きが変われば、叶海はきっとまた来てくれる。そして、いつでも誰かの背中を押してくれる。