劇場公開日 2024年8月16日

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「英題はbefore it ends(戦争が終わる前に)だった」ぼくの家族と祖国の戦争 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5英題はbefore it ends(戦争が終わる前に)だった

2024年8月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

終戦を一か月後に控えていた大戦末期、ドイツ占領下の北欧の国、デンマークに、苦境に陥っていたドイツから突然、25万人もの難民が送り込まれる。当時のデンマークの人口は400万人位、今の日本だったら720万人に相当する難民の数。ドイツは、ユダヤ人で経験しているので、大量の輸送はお手の物。しかし、収容施設はなく、デンマーク側が準備しなければいけない。

問題になるのは、電気、水、ガスなどのライフライン。それから食料と医療。前者はともかく、後者は、ドイツ側の義務。ただ、清掃やごみの処理だって行う必要がある。しかし、過酷な環境下に、重度の感染症の流行を見る。結局、多くの難民が亡くなったようだ。実話に基づく物語。

一番の鍵は、おそらく医師を中心にした医療だろう。医師には、困っている人を救う義務がある(赤十字の精神を想い出せば、明らか)。しかし、ドイツ人の医師は少なく、医薬品の供給も十分ではない。市民が難民に好意的な態度を見せようものなら、終戦まじかで、ナチによる暴虐を受けた人から構成されるレジスタンスの人びとの強い眼差しを受けることは明らか。ドイツ軍の軍政下では、デンマークの行政も頼りにならない。さて、引受先とさせられた市民大学の学長一家は、どうしたろうか。学長ヤコブは、そこで、強い意思を見せる。

間に挟まれた学長の息子セアン(演ずるラッセ・ピーター・ラーセンは、難民の少女に寄せる思い、父親を慕う気持ち、父親に反して、皆の前で格好をつける、の三つを演じ分けた)を一番元気づけたのは、父親手作りの第二次世界大戦の名機、スピットファイアの木製モデルだった。国を挙げて敢然とナチと戦った英国が救いであったことが判る。その向こうには(映画では出てこないが)自由の国、米国が見える。全体の方向としては、そうであったとしても、個々のレベルでは、弱者に寄せる強い思いもあったのだろう。

詠み人知らず