ゆきてかへらぬのレビュー・感想・評価
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大正時代の京都と東京を舞台に、実在した女優・長谷川泰子と詩人・中原...
大正時代の京都と東京を舞台に、実在した女優・長谷川泰子と詩人・中原中也、文芸評論家・小林秀雄という男女3人の愛と青春を描いたドラマ。
広瀬すずが長谷川泰子、木戸大聖が中原中也、岡田将生が小林秀雄を演じた。
意外にも悪くない。広瀬すずの怪演が最大のみどころ。
キーになるシーンを完全にネタバラししてしまっている予告編と、大正ロマン的雰囲気が良かったという先行レビューに気をそがれながらも久々の根岸吉太郎作品だしな、と勇を鼓して観てきました。
まず大正ロマンを味わいたいという方は、こんな映画を観るよりも浅草あたりに行って大正ナンチャラとかいうお店でレトロクリームソーダなんかを召し上がったらよろしい。この映画はああいった似非テーマ空間と比べると、かなりちゃんとした美術設計がされている。だからカフェとかダンスホールとか、いかにもといった感じとなる場面はしょうがないとしても、かなり時代性みたいなものは後景に退いていてドラマ中心にきちんと撮っている印象はあった。そのためむしろ現代劇を観ているような感覚。
長谷川泰子という人は平成5年まで生きていた人である。昭和49年に彼女からの聞き書きで出版されたのが「中原中也との愛〜ゆきてかへらぬ〜」である。すでにこの時点で中也の死後37年が過ぎている。ちなみに「ゆきてかへらぬ」は中也の詩集「在りし日の歌」からの引用である。これを原案として田中陽造が脚本を書き、40年近く塩漬けになっていたが、この度何故か映画化された。思うに「月に吠えらんねえ」に代表されるように懐古文芸ブームは根強くあるところに太宰ブームは一巡したので次は中也だ、という狙いがあるのだろう。
ところがそもそも長谷川泰子自身が、男から男へと渡り歩くいわばフラッパー的な女性だった上に、タネ本が彼女の発言だけであり、それも戦後かなりたってからのものである。長谷川、中也、小林秀雄の三角関係は分かりにくく、多分に彼女の言い分に偏っている感じはある。「神経と神経がつながっていた」とか「2人で長谷川を支えていた」とかは映画の中のセリフにもありなんとなくは理解できるもののまだモヤモヤしているよね。本作でも演者は頑張っているものの、そこに完全に説得性を持たせるには至っていないと思う。だから長々とくっついたり離れたりしてるばかりの話をみせられてっていう批判が出てきてしまう。
それを吹き飛ばすのが広瀬すずの怪演です。彼女は演技は上手くないし、体も小さく貧弱で肉体的に迫力がない。事務所のガードが強く仕事を選びすぎるという話もある。
でもこの作品での彼女は異様です。最初から最後までいつものようにメイクを落とさず同じペースで走りきっている。言っちゃなんだけど、ドラァグクイーンのような迫力がある。特に最後の火葬場のシーン。全部持って行っちゃったよね。もはや不条理劇なのかっていう感じだった。本当に変わった女優さんです。あ、褒めてます。上手くいったら京マチ子みたいな大女優になるかも。知らないか。
見た事がない
芳醇で贅沢な官能美。
古き良き邦画の香りと言ったところか。夢か現か、エロスを感じさせる浮遊感のある大正・昭和の雰囲気が楽しかった。田中陽造の脚本に拠るところが大きいのだろうが、美術・証明と、根岸監督による演出・カメラワークが見事だ。オープニングの柿が淫靡で良い。岡田将生が登場するまで、ワクワク・ドキドキした。 願わくば広瀬すずと岡田将生の逢い引きをもっと思わせぶりに演出してもらうと満点でしたね。谷崎潤一郎の「鍵」をムッソリーニからナチスの影響を受けるヴェネツィアの風景と共に淫靡に表現したティント・ブラス監督のように。広瀬すずの押さえた演技がモデルとなった大部屋女優の歩留まりと相まって、やり過ぎないことで逆にリアルに思えた。岡田将生も相変わらず良かった。何かとても贅沢をしたような気分になれた。
天才と狂人と常識人
太宰治と松本清張の生年が同じ1909年って知ってます?ご存知のように太宰は1948年に心中し、清張は1992年に亡くなっています。1960年生の私が中学生になった頃には太宰は国語の教科書に写真入りで「走れメロス」が掲載されていました。死後25年ほどしか経っていないのにです。清張は私が30過ぎまで新作を書き続けましたが、死後30年以上経っても私にとっては今も生きているという感覚なんですね。
私が何を言いたいかというとこの映画「ゆきてかへらぬ」は長谷川泰子が1974年に残した自伝を元に映画化されていますが、主な登場人物の生年と没年を記しておくと
中原中也(1907~1937)
長谷川泰子(1904~1993)
小林秀雄(1902~1983)
冒頭に太宰と清張の例を挙げましたが、一番生年があとの中原中也は30で亡くなり、長谷川泰子のことは全く存じませんでしたが、小林秀雄は私が大学を卒業した年まで存命でした。中原中也や太宰治に限らず、後世に素晴らしい作品を残した「天才」たちは早逝なのでしょう。自死を選択する場合も多いですが、早逝したからこそ短期間に発表された作品が尊ばれるのかもしれません。
この映画の三角関係はたった5年間ほどのお話です。1927年中原中也は17歳で彼女と同棲を始め、上京し、18歳で彼女は小林秀雄の元へ行き、1928年には小林は彼女の元を去ります。
天才である中原中也と、心の病を持つ長谷川泰子と、あくまでも常識人評論家である小林秀雄による三角関係は、人間性はともかく天才である中原中也を泰子と小林が取り合ったというふうにも見えます。 小林が泰子から逃げてから中原中也の死まで、およそ10年間という月日が流れていますが、その部分をほとんど描いていないので、ちょっと中途半端のようにも思えました。
あら、3人とも実在人物だったんだ
この作品、予告編を観てなかったが、広瀬すず推しの自分なので、そこそこ期待しながら着席。すず演じる20歳の長谷川泰子は女優だが、主役級ではなかったね。監督にも怒られてるしな。木戸大聖演じる詩人の中原中也はまだ17歳、高校生かなって思ったが大正時代だと社会人が多かったのかな?
泰子が寝ていた部屋にやってきた中也、どっちの家なのか疑問だったが、一緒に暮らしてんだ。でも仲良しには見えなかったな。ところが2人で東京へ引っ越し。中也の気持ちは分かるが泰子は蒲田で女優、意外。それから出会った、岡田将生演じる小林秀雄は天才批評家だった。それから始まる三角関係。泰子、小林と暮らすの?意外な展開でした。ずっとオチを想像してたんだが、実際には超意外なラストで、ちょっとウルッ!ずっと3人のやり取り、すずなのにどなりまくる泰子のキャラはあまり好きじゃなかった。好きなのか嫌いなのかよく分からない複雑な中也の気持ち。もっと分からなかったかっこいい小林、岡田君見事でした。ストーリー的にはちょっと退屈でしたが、そこそこ楽しめました。
それほど傷があるわけではないが、3人しか出てこないのも気にする方はいるか
今年61本目(合計1,603本目/今月(2025年2月度)24本目)。
大正時代に活躍した実在の人物を扱う、その3人の関係を扱う映画です。その方も著名人であるのでネットなどで検索していると有利かな、といったところです。
3人しか出ないので(他にモブという人はまぁいない)、会話の流れ等も限定的で混乱させる要素がないこと、大正時代を扱ったことで現在の日本と極端に異なる解釈をする必要がなかったのも良かったところかな、といったところです。
特に詩人の中原中也は知っている方も多いと思いますが、こうして映画化されたことに意味があるのかな…と思っています。
一応、ややちょっとエッチかな…(PG12よりか)というシーンもなくもないですが、その部分(絡みのシーン)は1回しかないし、まぁ特に気になるものではないです。
採点上特に気になる点までないのでフルスコアにしています。
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(減点なし/参考/大正時代と国民主権)
大正時代は帝国憲法で「天皇が一番偉い」という考え方でしたが、帝国憲法の制定上たえず各国から新しい考え方が流入されるようになってきた、このとき、帝国憲法の規定を変えずに、他国で一般的だった国民主権的な考え方を持つ人、法学者は少なくありませんでした。
つまり、国民が主権で色々ものを決めていくだけで、決めた結果に対して天皇はその内容に「サインをするだけ」という「機械的部分」に着目とした「天皇機関説」という考え方が出てきました。これは今でいう国民主権(現日本国憲法の国民主権)にあたるものですが、それが実質当時も存在していました(第一次、二次世界大戦ほかもありますので、各国の法体系を学んでよいところは取り入れるといった考えが普通なので、帝国憲法の内容を文面通りにとった「天皇主権説」は大正時代以降、衰退してしまいます)。
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期待しただけにちょっと残念
中原中也と小林秀雄と長谷川泰子の実話を基にしたお話なんだけど、かなり変えてしまっていました。
より濃厚な面白い話になっているならまだいいんだけど、逆なんですよね。wikiで「長谷川泰子」を見てもらえるだけでもわかるけど、実際はもっと複雑で、それをもっと描いてくれれば、こんな淡泊なお話にならずにすんだのに。
あと、小林秀雄役の岡田将生さんは相変わらずの感情がイマイチ伝わらない演技で、軽い気持ちで泰子を誘ったけど、扱いきれなくなってさっさと逃げちゃった情の薄い男にしか見えなくて残念。
小林秀雄をあそこまでたんぱくにするなら、もっと中原中也を軸にした話にしてほしかった。
中原中也にリアリティがあったのと、中也と泰子が取っ組み合いの喧嘩をすると泰子が必ず勝ってしまうのはちょっと面白かったけどw
映像はリアル、会話は非日常
広瀬すずのPVとしてならあり
観てきたばかりの映画なのに、物語や台詞をほとんど覚えていない。
時代の雰囲気を表すためなのかあるいは文学的な雰囲気を出したかった
のか、言い回しが現代人の日常会話とちょっと違っていたのにも馴染めない
気がした。途中寝てしまったくらいだし、自分の心に響く内容ではなかった。
では全く見どころがなかったかというとそうでもない。
大正から昭和初期にかけての話なのでその時代を再現したセットや
その他の美術面では良い雰囲気が出ていた。色調を抑えてノスタルジックな
感じを出したり、映像は良かった。
そしてその時代の服装を身に纏った広瀬すずの美しい姿。衣装も髪型も
和装から洋装まで幅広く、場面ごとに変わるのが見ていて楽しかった。
広瀬すずの演技は無邪気に遊んだり時にはメンタルがぶっ壊れて叫んだりと
変幻自在。実在した女優・長谷川泰子とのことだが映画の撮影現場
(トーキー以前)の場面も面白かった。ダンスホールで楽しそうに
踊る姿も印象的。
中原中也・小林秀雄という、やはり実在した人物との不思議な三角関係。
肉体関係が当然あったのだがそこはほんの申し訳程度にしか描かれず。
まあ脱がないだろうとは思っていたのでほぼ着衣のままで○○しても
想定の範囲。もし主演が二階堂ふみだったらもっと妖艶な映像が
見られたかも?などと妄想してしまった。
誰にでも薦めたくなる映画ではないが、出演者の誰かが好きなら
一見の価値はあると思う。
自分は広瀬すずが好きなので彼女を愛でるPVのつもりで観る分には
損はないと思った。
大正時代 昭和初期を再現は好感 ただ 無常という事 というより 新進女優役 広瀬すずさんが圧倒的に存在感。
文芸評論家の小林秀雄さんを映画で観るとは思わなかった 正論 精緻な文体。
むしろ難解さでは 中原中也さんの詩の方が難解です 遥かに。でも中原中也さんのキャラは映画 ドラマにしやすい。
大抵酔っ払いで破滅的描写 本作では如何❓映画館スクリーンで確認を。
小林さんと中原中也さんの関係性は知りませんでした。
ただ やたらと 俺の大学受験の時 小林秀雄さん 頻出なので かなり現代文の学習として読みました。
大学入学後は 1文字も読んでません。ごめんなさい🙏。
俺には 文芸評論は無理みたい。申し訳無い。
でも実際は大部屋女優【有料パンフ🈶より引用】だったという 長谷川泰子さん 広瀬すずさんが圧倒的な存在感
岡田将生さんの 昭和のハンサム感
木戸大聖さんの 中原中也感 も良かったです。。
ただ申し訳無いけど 岡田将生さんほどハンサムでは無いよね。ご本人様。
有料パンフ🈶には 中原中也さんの詩が載ってますが 俺にはわからないや ごめん🙇なさい。
不思議な三角関係 京都から東京へ 雪 雨 非常に情景が良い。
女と男 男と女 男と男
どういう修羅場やねん って思った。
俺的には トータス松本さんの ・の上 楽器が不思議
富永太郎さん役の田中俊介さん。昭和の結核 肺病感 良かった
最後に 無名の・・・で 引き締めた 柄本佑さんが良かった。
なかなか手間のかかった 典型的な日本映画の良さ感じました 地味だけどね
でも 圧倒的に 広瀬すずさんの存在感 ケレン味十分 でもリアリティも十分
あの時代に ぶっ飛んでた 長谷川泰子さん 尊敬🫡
尺もよく 普通のテンポです。
有料パンフ🈶は 極めて 多面的な考察 いかに本作製作 苦心したかがわかる 構成の良い良作
是非購入オススメ 文字多いけどね 拾い読みできます。バラエティに富む。
まあ 人生観だね。
ゆきてかへらぬ 確かに GOOD👍 あっ そういえば タバコ🚬のワンカートンは 昭和では贈答品でした。我ながら超細かい指摘で申し訳ない。謝ってばかりだなぁ 今日の俺。
『こういう文芸的な映画は客入らないねぇ もっと入っても良い❗️』と自分の無知を棚に上げ 意気揚々と 終電 駅に向かう勝手なおっさんでした。
境界を失ったソウルメイト
主役は長谷川泰子ではあるが、3人の関係性の中心にいるのは中原中也であるように感じた。
泰子と中也、中也と秀雄、秀雄と泰子。
色恋の三角関係だけでなくそれぞれがもっと深い心の場所で繋がっているような、いわばソウルメイトのような存在、という解釈なのかもしれない。
それぞれが境界を保つためにする選択とその過程が見えた。
広瀬すずさん、今まであどけなさと辛さを表には出さず堪える姿が魅力的な役が多かったように思うが、中也からみて年上女房の佇まいで喚き壊れる姿は新鮮のように思った。
飛花
女優・長谷川泰子と、彼女に恋をした詩人・中原中也、そして中也の友人の文芸評論家・小林秀雄の恋愛と友情の話。
20歳の長谷川泰子が17歳の学生であった中原中也と出会い、彼の下宿に居候することになり巻き起こっていくストーリー。
中原中也以外の2人は知らずに観賞。
三人の関係をみせる作品ではあるけれど、あくまでも長谷川泰子がメインで、中原中也と小林秀雄は助演という位置づけですかね。
文学的な題材の作品とはいえ、三人共に日常から恋愛に至るまで、思想や言葉の選び方がまあ文学的で劇的で面倒臭いこと。
作風と合っているから、それが嫌な感じはしないけれど。
何が実話なのかは知らないけれど、共依存症に陥りやすい感じの長谷川泰子に振り回される二人の男という感じで、ドロドロ感は堪能できるけれど、文学的過ぎて生々しさが足りなかったし、やっぱりちょっと長かった。
大正時代の文学作品?
映像美
冒頭の京都シーンでの和傘、雨、そして雪。カイドウの花など映像がまず美しい。広瀬すず、木戸大聖の寄りも多く時代背景や小物にも余念がない。
出来るだけ3人について調べてから観賞したが、泰子はそんなには悪女には思えなかった。これは監督が脚本より史実を優先してくれたお陰もあると思う。全員身勝手な部分もあるし、1番悪いの小林では?とさえ思った。
中也は若さ故の正直さと無鉄砲さがあり最も人間らしく共感できる点も多かった(奪われて捨て台詞吐くところなど)
泰子も何だかんだ中也が気になって、感情剥き出してぶつかれる相手で素直な人という印象。生きる為に愛されたくて、繋がっていたくて…というのは現代にもよくある。
小林だけ狡猾な考えが透けてみえ(一等取って返すから200円貸してだの泰子は料理ができないと平気で言う、神経病になったら逃げる…)て嫌な男と思った。
まぁ2人とも普通に女に手を上げるのでその時点でどっちも良くないのだが(笑)
全体として感動ポイントはない。昔の人の愛と嫉妬の恋愛劇としてみた。現代人もその点は共感できるなと腑に落ちた。
感傷
大正浪漫漂う、文学的なトライアングル・ラブ
ボガ・モガと呼ばれた時代の最先端のお洒落な人達が、闊歩していた大正から昭和の世の中が舞台。そんな時代を生きた、天才詩人・中原中也とその恋人で実在の女優・長谷川泰子、そして、中原の友人でもあり、泰子とも暮らしていた文芸評論家・小林秀雄の3人による、奇妙な三角関係を描いた、大正ロマン溢れた青春ラブ・ストーリー。
当時の時代を反映してか、台詞表現も文学的で、やや難解な3人の人間模様に加えて、喜怒哀楽の激しい演技に、芥川賞作品を読んでいる様な印象が残った。また、登場人物である小林秀雄については、1980年代まで生存しており、今でも文芸界においても何かとその名前や功績を目にすることもあった。しかし、残念ながら中原中也については、詩人として名前は聞いたことはあっても、彼の詩も生涯も全く知らず、長谷川泰子については、今回初めて知った人物であるため、個人的に入り込める内容ではなかった。
女優を目指す二十歳の長谷川泰子は、なかなか日の目が出ず、燻った日々を送っていた。そんな時、17歳の学生・中原中也と出会い、互いに淋しさを補うように一緒に生活を始める。そして、京都から上京した2人の前に、中也の友人で文型評論家の小林秀雄が現れる。小林は中也のよき理解者であり、彼の才能を大いに買っていた。
そんな意気投合する2人の会話についていけなかった泰子は、自分だけが取り残された想いに駆られ、嫉妬する。と同時に、中也に無い小林の魅力に惹かれるようになり、中也を棄てて小林の元へと走る。そこから、3人の奇妙で、文学的な三角関係が描かれていく。
主演の長谷川泰子役には広瀬すずが演じ、可愛かったすずちゃんが、すっかり大人の女の匂いを漂わせる演技を魅せていた。また、男を巡って精神を病んで、激しい感情を剥き出しにする演技に、新たな女優としての成長も感じた。中原中也には、最近よくドラマでも目にする木戸大聖が、虚勢を張り泰子に執着しながらも、天才肌の男を演じていた。そして、小林秀雄には、岡田将生が、泰子の言動に翻弄される男を、安定感のある演技で演じていた。
中也と泰子@広島
小説もそうだが、映画も「なにを描くか」よりも「なにを描かないか」が重要であったりする。
たとえばこの映画は、京都での中也と泰子の話から始まっている。冒頭の、セットで作られた見事な黒の色調の京の街並みと、屋根の柿の実の赤の対比が鮮烈で印象的である。ただ、泰子が広島から女優を目指してかなりの辛酸を重ねて東京に行き、しかし一か月ほどで関東大震災で心ならずも東京を離れて京都に去っていた、などの背景は語られない。
また中也も、郷里の山口で落第して居づらくなって京都の学校に親から行かせてもらった、などの背景も語られない。
さらに、中也と泰子は広島の同じ敷地内の学校に幼いころ通っていて、面識があったかどうかは不明だが、京都に知り合いも少ない中で二人が同じ場所で幼年期を過ごした気易さ、共感などは語られない。
後の泰子が、中也や小林秀雄以外の相当な文学界や演劇界の大物との交流があったことも語られない。
中也を「振った」泰子が、のちに中也ファンからのバッシングを受けたことも語られない。
おそらく監督も制作陣も、実際はさらに豊穣で複雑で多岐にわたる事実を描くというよりも、鋭敏で鮮烈で劇的でシンプルな美しい画、それを撮りたかったんだろう、そんな映画なのだと思う。
とてつもなく印象的な場面をいくつか観られたら満足できる、という観客なら楽しめるが、そうでない観客には不満が残る、そんな作品。
全148件中、101~120件目を表示