「愛と孤独」ゆきてかへらぬ あおねるさんの映画レビュー(感想・評価)
愛と孤独
傑作です。映画館で鑑賞できなかったのが惜しいです。広瀬すずさんのお芝居を見るといつも感じるのは、向かってくる時は鋭利なのに、こちらに届く頃にはなぜか痛くない。不思議なものでしっくりきます。
広瀬さんが近年演じる作品のキャラクターは、どれも同じではないけど、近しいものを感じます。
気高いようでいて、その芯は脆い。何も抱えていない人などいないけれど、目に見えないだけで抱えているものの重さに心が負けてしまう。
強く見せようと見栄をはるが、外側に貼り付けたそれが剥がれ落ちるのは早い。
この作品で演じた役柄は実在の人物ですが、おそらく広瀬さんでなくては、長谷川泰子という女性を演じられなかったでしょう。
みんな不格好ですね。欲しいと思う時は金銀財宝のように光り輝いて見えていて、手に入ったものが「がらくた」だと感じた瞬間、唇から零れるのは「がらくた」に対する愚痴。
三者三様、本音と建前の建前が崩れる瞬間が何度も垣間見えました。
結局小林は泰子を愛しているというよりも、泰子というフィルターを通して中原を見ようとしていたし、泰子は小林のところに行くと決めたのは自分だと口では言いながら、その言葉の奥には中原への執着とも呼べる未練が見える。
中原も泰子に見せつけるようにわざと彼女をヒステリーに陥らせるような言動をとる。
誰しもはじめから罅があって、各々の境遇によっていずれ来たる形あるものの終わりを待っている。彼女の場合特に、思っていたより呆気なくその時を迎えたということなのかもしれません。
滑稽にも見えるが、なぜかそれを美しく思わせてしまう女性と、それに翻弄される男性達の姿は、欲望に忠実で生々しく、そして人間味に溢れている。
愛に飢え、それによって生み出された歪みに飲み込まれ、人間をこんなにも狂わせてしまう。
僕の目には、この人を愛している、という彼女自身が起こす錯覚と、本当は誰かに止めどない乾きを癒してほしくて縋るしかない彼女の孤独が映った。
作品に投影された彼女のラストは、中原の死と共に、漸くの決別と、本当の愛に辿り着いたような気がした。
彼女の「さよなら」はどこまでも美しかった。
