「根岸吉太郎の前作より面白かったし、好きな作品だけど…」ゆきてかへらぬ mac-inさんの映画レビュー(感想・評価)
根岸吉太郎の前作より面白かったし、好きな作品だけど…
久々の根岸吉太郎監督作品。
シナリオが田中陽造で、「知る人ぞ知る」幻の傑作だったとか。確かに短編小説ようなキレがあり面白い。
時代は、大正〜昭和の初期までを描いている。美術セットもかなり凝っている。CGなどVFXを駆使して大正〜昭和の時代の風景を情感豊かに作り出している。(新宿駅から屋外に出てくるシーンはワンカットで撮っているし、京都の下宿先の建物群のセットも目を見張る!)
今回、カメラがよかった。特に異常に被写界深度を浅くして人物にフォーカスを合わせ、周囲がボケる撮り方が今回の濃密な人間関係に合っていたし、さまざまな場面での色調の変化も美しく暗示的。
などなど映像は素晴らしく、飽きない。
広瀬すずが長谷川泰子、木戸大聖が中原中也、岡田将生が小林秀雄で、この三角関係の演技陣の絡みも見応えがあるが…。
全体的にとても上手く上品で、楽しませてくれるしセンスもある。見ながら飽きない。でも…。何か物足りない。
多分、突き抜けたものがない。
広瀬すずは熱演で、申し分ないけど、やはり男女の絡みのシーンでは、演出に遠慮がある。何も広瀬すずの裸体を見たいわけではないけど(見たいけど)、ちょっと踏み込みが足りなかった。その分嘘くさく見えた。いくら神経がやられている芝居を見せても…
最初の下宿屋のシーンやローラスケート場、ダンスホールのシーン。母娘で入水するシーンなど見応えのあるシーンが数多くあり、見ている分にはとても楽しめる。でも見終わった後、思ったより残らない。
何かが足りない…。真剣さ?リアルさ??
根岸吉太郎の前作より面白かったし、好きな作品だけど…。
<3月29日追記>
エンドロールの「主題歌」はこの映画に合わなかった。なぜ岩城太郎の音楽だけで終わらせなかったのだろう。大人の事情?