「入り込めるか、込めないか。評価は変わる。」ゆきてかへらぬ りいさんの映画レビュー(感想・評価)
入り込めるか、込めないか。評価は変わる。
クリックして本文を読む
美術、照明、衣装、メイクアップ、全てのスタッフを絶賛したい。
全編美しい❗
中也と泰子が暮らし始めた京都の路地、
雨に濡れる黒瓦、俯瞰に流れる朱の傘、白く積りゆく雪、風に流れる桜。
部屋の調度品、窓ガラス、食器に至るまで
細部にまで神経を研ぎ澄ませた根岸監督の作品に魅せられた。
星5はこの映像美に捧げたい。
物語にはなぜか入り込めなかった。
恐れなく言ってしまえば、現実味のない芝居に退屈してしまった。
広瀬すずの全力演技をしても、ヒリヒリとした軋みが伝わってこない。
中原中也という詩人の魂も、小林秀雄の裏切りの痛みも。
ふと、気がついた。
コレはこの映画は、原作ゆきてかえらぬは、2人の男に揺れた長谷川泰子の口述筆記による著作を原作にした、長谷川泰子の視点で描かれた映画であると。
彼女にとっては、後の天才詩人も(17才の傲慢と繊細にゆれるセンチメンタルで世間知らずな)一人の若者であり、後の大評論家も(頭でっかちで理性を重んじる)窮屈な大人であるのかもしれない。
広瀬すずの渾身演技に胸打たれたのは映画後半、中也が亡くなったと知った後に、その死に慟哭し、中也のくるりと折り畳んだ赤い手袋を(彼の心臓として)唇に寄せ食べようとする無言の数分のシ−ンだった。
求めるものによって、この映画の評価は変わるのかもしれない。
コメントする