劇場公開日 2025年2月21日

「三人のラブ・アフェア」ゆきてかへらぬ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5三人のラブ・アフェア

2025年2月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

難しい

文士の三角関係は枚挙にいとまなし。

〔あちらにいる鬼(2022年)〕は
『井上光晴』と妻、『瀬戸内寂聴』の長年の関係を映画化したもの。

『谷崎潤一郎』は、妻を『佐藤春夫』に「譲渡」する契約を結んだ
「小田原事件」を起こしたことでも知られている。

このあたりは自分の記憶の範囲内。

しかし、本作で描かれている
三人の関係については
寡聞にして知らなかった。

『中原中也』と『小林秀雄』が昵懇だったことは
仄聞していても。

『中原』が放蕩なのは周知も、
『小林』もなかなかの無頼。

共に酒癖も相当に悪かったようで、
それも本作で描かれた二人の仲の裏側にあるのかも。

自分たちが受験生の頃には
〔様々なる意匠〕は必読だったわけだが
(まるっきり理解できなかったけど)、
書かれたものと人間の本性には
何ら関係が無いことは良く理解できた。

『長谷川泰子(広瀬すず)』はデラシネの女。

身の回りをトランク一つに詰め、
どこへなりとふらりと立ち回る。

見目は麗しく人目を惹くものの、
台詞回しが上手かったり、
立ち居振る舞いが美しいわけではない大部屋女優。

家事もからっきしなのに加え、
性格も相当にエキセントリック。

そんな彼女に
文才に優れた二人の男が惚れ、
振り回される。

最初に出会ったのは『中原中也(木戸大聖)』。
次には友人の『小林秀雄(岡田将生)』へと連鎖していく。

『泰子』はやがて『小林』の元へと逐電し、
その三角関係の苦悩から『中原』は詩を着想するのだから、
まさに「ファム・ファタル」そのもの。

『小林』が『泰子』との生活に疲れ
袂を分かった後も三人の関係はぐずぐずと続く。

しかしそれは、男女の愛情を超えたものへと昇華し、
傍目からは奇異にも見える。

もっとも、『小林』が『泰子』と関係を結んだ理由も
『中原』が一緒に暮らしていた女性だから(そうした)、とは
容易に想定できるもの。

あまりに複雑に過ぎ、
凡人には到底理解が及ばない。

『広瀬すず』が大正時代の「モガ」を
美しく演じる。

身体表現も変わらずしなやかで
観ていてほれぼれするほど。

潔癖症にとらわれた狂気の演技も凄まじく、
生き生きと主人公を体現する。

とは言え、観る側は
『長谷川泰子』の人間像を掴み切れない
もどかしさを感じる。

幼い頃の母との記憶のシーンを削り、
全体の尺を伸ばしてでも
彼女の人となりを膨らませるエピソードを
増やすべきではなかったか。

ジュン一