「愛は偽造できる?」本心 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
愛は偽造できる?
池松壮亮が波に乗ってる2024年。「ぼくのお日さま」「ベイビーわるきゅーれ」を個人的年間ベストに入れてるのなら、本作も逃す手はないでしょうと思っていたのに、よく行く映画館との兼ね合いが上手くいかず、気づけばどこの映画館も公開終了のお知らせが。もうなんで?!たまぁにあるんだよね、こうもギリギリになってしまうことが。ということで、毎度御用達の駆け込み寺(ちょっと遠くの映画館)に滑り込みで鑑賞。あっぶねぇ、逃すところだったよ。
評判はそれほど良くないのでさほど期待せずに見に行ったんだけど、これが意外に良くて。平野啓一郎原作の「ある男」は過大評価され過ぎでは?と少し思ったもののまあ好きだったし、何より石井裕也が当たり外れはあれど自分は結構好きだから、わりと上手いことハマれたなと。
設定が2025年の8月と近未来という言葉の威力からすると近すぎる未来ではあるんだけど、このなんともフワッとした捉えようのない、みんなが探り探りで生きている感じがとてもリアルですべてにすごく納得してしまった。
これは現実なの?それともVRゴーグル(この言い回しが正しいのか分からないけど)から見える世界なの?と惑わせる演出が秀逸でとても面白い。おかげで最初から最後まで考察が広がる。VR世界、そしてAIの技術は目まぐるしいほど進化を遂げており、最近では生成AIと言う新たな刺客が猛威を振るっている。
それじゃあ、人間はどうなのか?人は日々進化し、退化している。みたいな言葉があるように、例え文明が発展したとしても、人間も次なるステージに行くとは言えない。むしろ、衰退してしまうのが想像にかたい。進化は人をダメにしてしまう。むかしはいまよりも不便でも、むかしのほうがいまより豊かだとも思う。
人というのはまあ鈍感なもので、少しの変化を感じることが出来ず、気づいた頃にはもう遅かったなんてことが山ほどある。それは技術的な側面だけじゃなくて、上記のような心情の変化という内面的な側面においても。一緒に暮らしていても分からない。人は全てをわかった気になってしまう。この映画ではこれをすごく丁寧に描いていて。親子間における小さな蟠りだったり、片思いの恋心だったりと、人間の煩わしさが皮肉のようにしっかり表面化されている。AIと人間。この対比がすっごくわかりやすくなっていて、直にこの映画の意図するメッセージを受け取ることが出来た。
我らが池松壮亮は、今年公開の2作品とは違い、かなり平凡で至ってどこにでもいそうな主人公。見ている自分たちと等身大でいてくれる時の池松壮亮は、奇天烈な人物を演じる時以上に大好きだし、そうそうコレコレと首を縦に振ってしまうお馴染みの顔。
こんな平凡な役でも、やっぱり上手いなぁと唸ってしまう。細かな涙の震えと小さな感情の動き。普通がいちばん難しいんだよ。石井組の常連だから、もうお互いことをバッチリ理解し合ってる。そんなことが見て取れる安定感と抜群の存在感だった。
まぁただ、この手の映画の在り方としては悪くないんだけど、それを加味しても観客に投げかけすぎたなぁと感じてしまうし、「ある男」に引き続き平野啓一郎がちょっと自分に酔ってるような、世界を斜め上から見すぎるようなところはどうしても気に食わなかった。
監督なりに、原作者なりにこの物語に対する解答は持っているのかもしれないけど、それでもふわふわし過ぎていて掴みどころのない、大物俳優の演技があってもちょっとインパクトに欠けた映画になっている。全体的には好きだからそこまで不満は無いけど、このテーマを扱うなら地盤はもっとしっかりしたものであって欲しかったな。
実写邦画となると途端にレビューが長くなってしまいますね自分。とやかく書いたけど、やっぱり池松壮亮と石井裕也には今後ともたくさん映画を作って頂きたい。日本映画界を支える、大事な2人だと思うんで。過去作見て楽しみに待っときます😊