「原作を読んだ者の感想」本心 ルカさんの映画レビュー(感想・評価)
原作を読んだ者の感想
役者はどの方も素晴らしかったし、各場面のシチュエーションも小説のイメージに大体近いもので、良い材料は揃っているが、料理の仕方を間違えた感じがした。
ラジオのインタビューで池松壮亮が「原作の小説に惚れ込んで作者に直談判して映画になった」と言っていたのを聞いて、面白そうだと思い原作小説を読んでから映画館に観に行った。
小説では主人公の心の細やかな葛藤が描かれており、そこが醍醐味だった。この心情の動きは映画になった時に全部モノローグで説明する訳にいかないだろうし、どうやって表現するのだろう?と期待していたが、映画では細やかな心の機微はあまり感じられず、主人公が色々考えた末に取った行動も映画では行動のみが描かれるので、なぜそういう行動を取ったのかやや唐突で、共感しにくいものになっていた。
原作では格差社会の問題も小説の大きなテーマとして、母の死の理由も含め深く扱われていた様に思うが、映画だとちょっと触れられた程度で、下の階層の人間はこういう仕事しか無いのか、という話などはあったが、個々のキャラクターの生い立ちも軽く説明される程度で、扱い方が表面的に感じた。
原作の「三好彩花」は著者の平野啓一郎氏が俳優の三吉彩花を知らずに偶然付けた名前で(キャラクターのイメージはかなり合っていたと思う)、その奇跡が面白い。
また原作では二十歳の幼さの残るイフィーを仲野太賀がやるとどうなるんだろうと思っていたら、妙に少年っぽくてあっけらかんとした喋り方が世間離れしていてぴったりだった。映画のイフィーは主従関係が上の立場からやや強引にサクヤから三好を奪おうとした様に描かれているが、原作はもっと繊細にサクヤの気持ちを伺っていたのにそれが全く描かれていなかったのが残念だった。
ちょっと品が悪い粋がった若者役の水上恒司や、何百万もする高額な買い物を妻夫木くんにこんな雰囲気で勧められたら買ってしまいそうだなあ…と思ったり、役者を見る分には楽しませてもらった。
ストーリーをかいつまんで原作をなぞるような形で1つ1つのテーマが深く掘り下げられていないのと、余白が少なくサクサク場面転換しているところがやや説明的で、池松壮亮の「この小説を映画にしたい」という想いを監督はちゃんと汲んで作ったのか?…と正直疑問。
他にもっと深い心情描写ができる監督さんに作ってほしかった。
原作小説の方が何倍も面白く続きが気になって直ぐに読み終わってしまったので、映画でこの作品を知った方は是非読むことをお勧めしたい。