「平野啓一郎の本心は分からない」本心 セイコウウドクさんの映画レビュー(感想・評価)
平野啓一郎の本心は分からない
この映画を観るために1か月前から原作を読む。映画の設定は2025年だが原作は2040年。登場人物等はほぼ同じだが、原作と映画は始めから話が違う。朔也は事故に遭わないし、母の事故死の状況も違う。朔也は教師を殴っていないし、女子生徒への処分に対する抗議で座り込みをし、その後に高校を自主退学する。女子生徒への恋愛感情もない。
朔也は彩花に対して好意はあるが、男性恐怖症であることを考え、気持ちを伝えない。彼の優しさであるが、女性に対する距離感でもある。映画では彩花に対する本心が重要な場面となっているが、原作はそこまで重くない。母は十分生きたと言い、朔也に見守られながらの自由死を望むが、不慮の事故で命を失う。朔也は自由死を望んだ母の本心を探ろうとするが、朔也が納得する母の本心は明らかにならない。ラストのVFの告白は原作にはない。自由死(尊厳死)と格差と差別、VFとリアルアバター、母の人生と朔也の出生の秘密などが絡み合いながら、朔也の変容を描く。映画よりは少し希望の持てる終わり方をする。
原作は結構なページ数のため、どこをどう切り取って解釈するかで、映画の主題が変わる。ラストの朔也の手を握ったのは、原作はVFの母が手を握ったように感じるが、部屋にいたのは彩花である。ラストの印象も、原作と映画では全く違う。
平野啓一郎はこの脚本に納得しているのだろうか。原作を読んでいなかったら、私の評価は違うものになっていただろう。詰め込み過ぎというレビューもあるが、他にも入れていない話があり、2時間に収めるのは難しい作品である。
共感&コメントありがとうございます。
原作についても丁寧に教えていただき、ありがとうございます。
未読なので知らなかったのですが、映画とはかなり印象が異なりますね。
おっしゃるとおり、切り取り方と解釈によるとは思いますが、主題まで変わってしまっては、それはもう別の作品のような気がしてしまいます。確かに、原作者の声を聞いてみたくなりますね。
お返事ありがとうございます。
こういうサイトで色々な感想を読めるのは勉強になるし、楽しいですね。
トシのせいか最近は邦画をよく観ます。
「正体」ですか、観てみます。
オススメありがとうございます。
原作の解説ありがとうございます。
作品に対する印象が大分変わりました。
観てから読む派なのですが、映画の世界観が暗過ぎて
原作も読めないレベルでした。
作家さんは納得してるのか?原作を読みたいと思えない映画化はどうなんですかね。比べるのは良くないかもしれないけど、八犬伝にはエンタメの原点を感じました。