「青空屋根の小さな理髪店」本日公休 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
青空屋根の小さな理髪店
台湾の下町、壁一面の大きなガラス窓から差し込む日差しの元、今日もはさみの音とお客さんとの会話が店に響き渡る。
理髪店を営むお母さんのもとに集まったその子供たち。ところが母親の姿はどこにも見当たらない。お母さんはかつての常連さんに整髪をするため車で向かった。
前に主張サービスの話を聞いた次女はそれじゃあ燃料代、手間賃などもらわないと割に合わない、ちゃんとコスパを考えてと母親に諭す。でもお母さんは通常料金でいいんだという。そういうことではないのだと。
女手一つ、はさみ一つで店を切り盛りしてきたお母さん。三人の子供たちを育て上げた。店には日にお客は二、三人。けして何十人ものお客が訪れるような店ではない。それでいいんだと、常連さんさえいてくれれば十分食べていける。
お母さんは常連さんへの電話でのお知らせを欠かさない。もうすぐお孫さんの入学式では?髪を整えに来てください。そろそろ髪が伸びてる頃ではありませんか。まるで郷里のお母さんが自分の息子や夫を気づかいするかのような電話での優しいお知らせ。SNSの時代、メールの一斉送信とは違うお母さんの手間暇かけた心遣い。
そんなお母さんの店に常連さんは足しげく通う。常連さんたちはけして離れていかない、その命が尽きるまで。
お母さんの店は地域のコミュニティだ。お客同士も知った仲、時には食料を持ち合って食堂まで兼ねる。
そのかつての常連さんの中で命が尽きようとしている人のためにお母さんは慣れない運転で遠路はるばる向かう。そこでは新たな出会いも。そうして紡いできた人間関係。
10分で整髪が済んでしまう今どき流行りの都会の理髪店。お客はまるでベルトコンベアに乗せられたかのように流れ作業で整髪がなされる。短い時間では会話が弾む暇もない。店もお客もコスパ重視。時間に追われ売り上げに追われて、どちらもそんな暇はない。会話を求めたければチャット。安らぎを求めたければリラクゼーションルーム、サービスは細分化されている。料金が安い店は重宝されるがさらに安い店があればお客は離れていくだろう。お母さんの店のようなコミュニティは失われつつある。
SNSの発達で人々は瞬時に世界とつながることができるようになった、でもそれは広くて浅い関係。お母さんの店では狭いが深い人間関係が築かれる。
今日もお母さんの店でははさみの音と常連さんの談笑する声が響き渡る。
かつてどこにでもあった失われつつある風景がそこにはあった。
心あたたまるノスタルジックな作品。なにげに資本主義社会やSNSに対する問いかけもなされている。
レントさん、コメントありがとうございます。昔ながらの床屋さんは継いでくれる息子などがいないと廃業になるのはどこもそうかもしれません。くるくる廻ってお客さんを待ってくれてるアレ💈には血が通ってますね