「驚いた!」本日公休 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
驚いた!
こんな映画が、台湾で作られているなんて!フー・ティエンユー監督が、彼の母親をモデルに書いた脚本をもとに、台中の実家の理髪店を舞台に撮影を行った本作。店の雰囲気は、TV受像機を含めレトロではあるが、車、道路、スマホなど基本的に現在の台湾が背景。
冒頭、長女のシンが、久しぶりに実家の理髪店を40年間続けている母アールイを訪ねるところから物語が始まる。母は、その日店を休んで(本日公休)、どこかに出かけたらしく(しかもスマホを置き忘れていて)、次女リンや、長男のナンに聞いても、行方はわからない。
そこで、話は時空を越え、長女は台北でスタイリストをしていて、一見仕事は華やかだが、物価は高く、暮らしは大変、次女は台中の美容院で働くが、気が強く、別れた気の優しい夫チュアンは、息子を引き取って、アールイのことも気にかけている、長男はまだ気が定まらないことなどが語られる。
手帳と電話を使って、いつも常連と連絡を取っては、理髪店を守ってきたアールイは、30年間使ってきたボルボを駆って、今は病に倒れて、遠くの町に引っ越してしまった常連客の元を訪れ、出張散髪をしようとしていた。さまざまなことがあった1日を終え、アールイが家に戻ってみると、3人の子たちが心配して、母の帰りを待っていた。やがて、いつもの常連客を相手にする日々が戻り、穏やかに新年を迎えようとする。
一番良かったのは、常連客の後頭部の変化を通じて、歳をとることが示されたところ。アールイには鍛え抜かれた技術があり、髪の状態により、最適の調髪の方法を見抜き、実行することができる。アールイは、このように老いを認めている一方で、若い人が歳をとった者の意見を聞かないことも十分理解している。第一、育て上げた3人の子たちの独立を認め、その経済的な繁栄をいつも祈っている(宗教の影響もあるのだろうが)。
我が国では、こんな三世代を越えた映画は見られそうもない。なぜだろう。
60歳を越えたかと思われるアールイには、何とも言えない活気がある。同年の友人たちと近場に出かけたりするが、自分の車を、前後の車のバンパーに当てて、強引に公道に出てゆく。まるで、ヨーロッパの人たちみたいに。交通キップを切られた時も、てっきり、あの行為が原因かと思った。
日本の国際映画祭に出品されたためか、日本のCMを撮影している場面があった。戦前の日本の台湾への影響だろうか、「オーライ」と言う言葉が聞こえ、理髪店の店先を飾っているサインポールも。