劇場公開日 2024年9月20日

「昭和ノスタルジーを喚起する理髪店のおばちゃんと家族の情景」本日公休 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0昭和ノスタルジーを喚起する理髪店のおばちゃんと家族の情景

2024年9月19日
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鑑賞方法:試写会

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今年は台湾映画の当たり年かも(日本公開年ベースではあるが)。5月の日台合作「青春18×2 君へと続く道」、6月の「オールド・フォックス 11歳の選択」、7月の「流麻溝十五号」、そしてこの「本日公休」。タイプや時代背景は異なれどそれぞれに魅力があり、台湾の歴史や昨今の社会事情、人々の価値観や人柄などを映画を通じてうかがい知れるのもいい。

本作で初めて知ったフー・ティエンユー監督は、1973年9月13日台中生まれ。母親が理容師で、主人公アールイのモデルになったほか、撮影に使ったのも実家の理髪店だという。2015年製作のオムニバス映画「恋する都市 5つの物語」では第4話「日本・小樽編」の監督・脚本を務めたそうで、こちらもいつか観てみたい。

何よりもまずアールイのキャラクターがいい。女手ひとつで育てた娘2人と息子1人はすでに家を出て、店舗の奥の住居でひとり暮らしながら理髪店を営んでいる。常連の名前と髪型の好みはもちろん、接客時の会話から相手の家族の事情まで把握していて、しばらく来店していない客には電話をかけて家族の話題をとっかかりにしつつ、家族の行事の前に散髪にいらっしゃいと巧みな営業トーク。頭の形を見ると似合う髪型がわかる、頭の後ろ側にも“もう1つの顔”がある、といった台詞には、自分の仕事に誇りを持った職人ならでは言葉だなあと思うと同時に、プロからはそんな風に見えるのかと少しどきっとした。

3人の子らはあまり実家に帰らずやや親不孝なのだが、近所で自動車修理店を営む次女の別れた夫チュアンが優しくて善い男で、元義母を何かと気にかけている。チュアンのキャラクターもまたいい味を出していて、互いを思いやるアールイとチュアンの会話に温かい気持ちになったり、切なくなったり。

スマートフォンが使われているので比較的最近の時代設定だけれど、昔ながらの人と人とのつながり、得意客を大切にする心、家族の距離感などそこかしこに、日本の昭和の頃に通じるノスタルジーを感じる。台北などは東京と一緒でもちろん大都会だが、台中の下町あたりではまだ人情味あふれる個人商店などが残っているんだろうなと思わされる。

個人旅行で台中か台南で民泊を利用したが、家主のおばちゃんが本当に人懐っこくて親切だったのが良い思い出。アールイが友達と干潟のような場所ではしゃいでいる数秒のシーンがあるが、あれはおそらく台湾のウユニ塩湖と名高い「高美湿地」だと思う。台中の中心地から半日くらいで他の観光地とあわせて巡るバスツアーがあって、天気の良い夕方に訪れるのがおすすめです。

高森 郁哉