「「これからのヤクザ映画は仁義じゃなくて友情を描くの?」「知らねえよ」」オアシス 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
「これからのヤクザ映画は仁義じゃなくて友情を描くの?」「知らねえよ」
幼馴染のヒロト(清水尋也)と金森(高杉真宙)は、青年になって対立するヤクザ組織に属することになる。そこに同じく幼馴染で当時の記憶を失ってしまった紅花(伊藤万理華)が登場。かつて仲良しだった3人が、組同士の抗争に巻き込まれるというお話でした。
第一印象は、最近では珍しく、とにかく登場人物たちがタバコを吸いまくる作品だということ。チラシにもタバコを吸っているヒロトと金森が写っているし、実際劇中でもこの2人をはじめ、殆どの登場人物が要所要所でタバコを吸うシーンが出て来ました。嫌煙家の私としては、その煙たいことと言ったら(笑)
タバコの煙たさはさておき、金森と紅花がヒロトの組の組長のドラ息子たちを殺してしまったことから、3人はかつての秘密基地らしき家に雲隠れ。そこで過ごした宝物のような一昼夜こそが、題名にもなっている”オアシス”でした。そんな夢のような楽しいひと時が終わり、ヒロトは父とも兄とも慕う組長と兄貴分に金森と紅花を差し出すことに。ここで万事休すと思いきや、金森の組の反撃もあり、最終的に3人は奇跡の脱出に成功。意外や意外ハッピーエンドになって驚きました。
若いヤクザの葛藤を描いた作品と言えば、今年4月に観た「辰巳」の記憶が新しいですが、あちらは主人公が死んでしまい、その点にリアリティがありました。一方本作も、終盤まではヤクザの仁義に従った行動や、殺るか殺られるかというギリギリの抗争を繰り広げる展開で、当方が抱く典型的なヤクザ映画という感じでしたが、最後の最後で勧善懲悪物よろしく金森の組の連中が助けに来るなど、ちょっとご都合主義的な部分もあり、若干鼻白むところもありました。ただ母親が目の前でヤクザに殺されたことがきっかけで記憶を失ってしまった紅花に、さらに不幸が襲い掛かるのではやり切れないので、まあ良い終わり方だったかなと思う部分も半分ありました。
あと印象に残ったのは、ヒロトのセリフ。金森に何を聞かれても「知らねえよ」と答え、親分に「何か欲しいものは?」と聞かれても「分かりません」と答えるヒロト。そんな彼が欲しかったのは、金森と紅花を交えた3人の友情・愛情だったと分かる訳ですが、極端な少子化が進み、「みんな友達」という思想が教育現場に深く浸透している感のある現代においては、ヤクザ映画も仁義より友情が優先されることになっていくのかなと思いながら劇場を後にしました。勿論肩で風を切る気分になることはありませんでした。
そんな訳で、本作の評価は★3.6とします。