「見つけ、守ることで、輝くもの」BISHU 世界でいちばん優しい服 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
見つけ、守ることで、輝くもの
愛知県を舞台にしているということで興味をもっていたのですが、行きつけの映画館では上映がなかったので、隣りの市まで遠征してきました。その甲斐あって、素敵な作品に出会うことができました。
ストーリーは、愛知県尾張地方で機織工場を営む神谷家の次女で発達障害を持つ高校生・史織が、なにげなく描いたファッションデザイン画が校内コンテストの最優秀賞に選ばれたのをきっかけに、尾州織物を広めて父の工場を再建したいという自身の夢のために、親友・真理子、長女・布美、周囲の人々の協力を得て奮闘する姿を描くというもの。
内容的には、主人公の成長、親子の絆、家族の再生、お仕事紹介、伝統工芸継承、地域振興、発達障害への理解など、多くの要素を詰め込みながらも破綻なくまとまっていたと思います。中でも、工場の経営不振に苦しみながらも亡き妻のために発達障害の史織を大切に育てる父・康孝、そんな父の姿から妹への嫉妬や父への反発を募らせる長女・布美、この二人の心情を丁寧に描いていると思います。おかげで、物語の奥行きが増しているように感じます。
そして、もう一人の発達障害の子として、音へのこだわりをもつ少年を登場させている点もいいです。発達障害をもつ人たちに家族や周囲や社会はどう接していくべきか、観客一人一人に考えさせるものがあります。そういう意味では、史織に対してなんの垣根も感じさせず、本音で向き合っていく真理子の言動が、一つの理想形のようにも思えます。
また、自身の行き詰まりと史織への嫉妬に悩む布美に対して、相談を受けた恩師の「才能は見つける人と守る人がいてこそ輝くものだ」というアドバイスの言葉が印象的です。もちろんこれは、史織の才能に気づき、それを支えようとする布美への励ましの言葉なのですが、そのまま作品全体を包み込む言葉でもあると感じます。
尾州織物の価値、町工場の技術、職人の技、発達障害をもつ人の可能性など、“見つける人と守る人がいてこそ輝く”ものばかりです。さらに言えば、そのことを“見つけ”て劇場作品としてまとめ上げた製作陣と、その思いを受け取って大切に“守る”観客がいてこそ、本作に込められたメッセージが輝きを放つのだと思います。
ただ、せっかくテンポよくスムーズに展開していたのに、終盤でやや引っかかる点があったのが残念です。特に、少年の盗聴騒ぎには違和感を覚えます。一見して発達障害とわかるのに、周囲があんな責め方をするでしょうか。これが史織と真理子の仲直りイベント発生のためのものなら、最初から真理子を途中退場させなければよかったです。そもそも服作りを諦めかけた史織に対して、それまでの接し方とは異なり、急にキレる真理子にも違和感を覚えます。あと、史織がランウェイを歩き出したタイミングでのまさかのブレーカー落ち。いくらなんでもちょっとやり過ぎです。これらの終盤でのわざとらしい演出が、かえって興を削ぎ、本当に残念です。
とはいえ、鑑賞後の後味はとにかくさわやかで、心温まるとてもよいお話です。ベタなサクセストーリーのようにも見えますが、この手の話はベタなぐらいがちょうどよいので、特に気になることはありません。純粋な史織の思いがしだいに形になっていくプロセスを、誰もが優しい気持ちで見守ることができると思います。なにげに最後はブラボー東川も応援してあげたくなりました。
主演は服部樹咲さんで、発達障害をもつ史織を好演しています。脇を固めるのは、吉田栄作さん、岡崎紗絵さん、ながさわいつき長澤樹さん、黒川想矢くん、清水美砂さん、知花くららさん、山口智充さんら。中でも、岡崎紗絵さんが抜群のアシストで魅せ、作品全体の底上げをしているように感じます。