「一皿に懸ける数多の人の想いを味わいたくなる」グランメゾン・パリ ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
一皿に懸ける数多の人の想いを味わいたくなる
初日舞台挨拶中継の回を観ました。
最も大切なことはお互いを信頼し合い、お互いの力を出し合って、チームで同じ夢を目指すこと。
ドラマから映画へと、東京からパリへと、規模が変わったとしても国境を越えても、良い意味で諦めの悪い熱い大人の青春ドラマでもあり、プロフェッショナルの仕事の話でもあり、人と人とが同じ志に向かって協働する物語でもありました。
シリーズを通して、ずっと目指すべき物語の軸や、人物たちに貫かれている精神・気持ちの熱量が変わらないところ、とても好きです。
小林圭シェフのお料理もとても好きなので、シェフらしい鮮やかで美しい料理を、大きなスクリーンで味わえて楽しく拝見しました。
今回はコロナ禍を経て、設定にその影響をきちんと反映させていたのは、今この作品を続けさせた意義を感じたし、タイムリーで良かったです。
SPドラマではグランメゾン東京の経営不振と業務提携の問題、映画では倫子さんが罹患して味覚に影響が出てしまったこと。似たような経緯で人知れず閉まってしまったレストランや、料理人としての道を断たれた方も沢山おられたのではないでしょうか。
さて、フランス料理に限らず、おそらく全ての料理は「いかに食材について深く知り、いかに良い食材を仕入れるか」で半分は勝負がついてしまうと思います。
映画では異国で勝負をすることの難しさとして、仕入れの困難さについて大きくフォーカスしていました。
外国人だから、というだけでなくて、やはり信頼関係が無ければ卸してもらえない。レストランとしては勿論、その人自身を評価して認めてもらえなければ話にもならない。
料理への知識や技術や気持ち以前に、人としての勝負、みたいなところの難しさを感じたのは大きな発見でした。その点、倫子さんが肉問屋に通い詰め、働いて信頼を勝ち取ったエピソードが印象的でした。
倫子さんは、厨房に居ても、サービスに居ても、レストランの外に居ても、料理に対して真っ直ぐな姿勢で人を繋げていけるところ、シリーズを通してずっと変わらずに素敵でした。今回も戻って来てからお店の雰囲気が格段に良くなってるし、チームワークも強くなっている。
倫子さんはグランメゾンシリーズの良心ですよね。頑固で負けん気が強いところも含めて素敵。
ずっと一番好きなキャラクターです。
(舞台挨拶見ていても、鈴木京香さん自身がきっと倫子さんみたいな、誠実な方なんだろうなと思いました。涙しておられる姿を見て、こちらもうるっと来た…)
また、「大人の青春」との通り、やっぱり特に尾花・倫子・京野・相沢の4人の「おばさんとおじさんの夢」がずっと軸にあって、諦めきれなくて、周りの人を巻き込んでいくところや4人の関係性が本当に好きです。
京野さんと相沢シェフの縁の下の力持ち感、周りをよく見て立ち回れる優しさと洞察力と経験値、これらもなかったらここまで来られてなかっただろうな…
(余談ですが、舞台挨拶で泣いてる鈴木さんに、ミッチー様の胸ポケットのハンカチーフを取って渡す沢村さんの図、関係性が良すぎるのと面白すぎて笑っちゃいました)
そして、改めて認識したことが以下の2点。
・食材へのリスペクトは、その生産者・土地、ひいてはその国の文化を尊重することに繋がること。
・自分の出自を活かすことや、一緒に働く仲間やお客様のアイデンティティや文化へのリスペクトこそ、最高の一皿に欠かせないこと。つまり、最後は「人」なんだと。
「異国の文化も取り入れ、常に進化してきた」フランス料理の三ツ星を担うような店であれば、こういった精神が料理から感じられるかも当たり前に問われているし、それを料理で伝えることができる。
とんでもないことを毎日自らに課し、提供し続ける難しさに気が遠くなりながらも、時間とお金をかけてでもこんなお店に伺ってみたいと、強く思いました。
(個人的にはサービスの地味な努力も描かれていてグッときました。お客様には絶対見せない、見せてはいけない努力。サーブの時間まで計算して練習したり、カトラリー磨きを日々欠かさなかったり…しかも歌って楽しそうに!)
ただ、映画で気になった点もありました。
・…尾花ァァァ!ドラマからちょっと酷すぎないか?と思ってたけど、前半は正直ワンマンすぎて結構許せなかったです。レストランだって組織、チームなんだから、シェフとは言え人望と共に星も無くなるよ…
・ユアンの借金の話、要るのか…?
ユアンと尾花の互いへのリスペクトとか、チーズを使わざるを得ない伏線とか、韓国系の出自ゆえに食材や調理法にオリジナリティを出す展開や人種差別の話にも繋がるキャラクターですが、チンピラのヤバさとか火事までは出さなくてもよかった気はする。
火事になったらもっと借金回収できなくなりそうだし、そもそも食材費はある程度お店が出すべきでは…
・ミシュランの描かれ方
終わり方が呆気なさすぎて、少し気になりました。尺の問題?三ツ星取るだろうなと思ってたし取れてよかったけど、どう終われば良かったのかちょっと考えてしまいました。
ここからは個人的な話ですが、2019年の『グランメゾン東京』から、昨夜のSPドラマ、そして今回の『グランメゾン・パリ』とずっとシリーズを追いかけてきたファンであり、少しだけですがフランス料理のレストランビジネスに携わっていました。
特に今回のSPドラマで取り上げていましたが、お金のためじゃない純粋な料理の追求と、ビジネスとしてブランド展開等マネタイズとのバランスみたいな問題に関して、料理の世界の厳しさを度々垣間見たこともあり、かなりリアルにいろいろ考えることもありました。
料理人の方は本当に朝から晩まで厨房に籠りっきりで、ずっと美味しい料理を届けることを考え、試行錯誤されています。
シェフともなると、ブランドの顔として様々な外の仕事もあり、お店の長としてブランディングだけでなく、人事やお金の管理なども責任を持たなければならないですし、ミシュランをはじめとした評価の時期にはものすごくピリピリもするし、とにかく毎日が勝負で一瞬気を抜けない中で闘われています。
本当に生半可な気持ちでできる職業じゃないです。過酷な仕事だなと思いました。
それでも、本当に料理が好きで、美味しいと言っていただきたい。その一心だけで、人ってここまで頑張れるのだなと思った瞬間も沢山見てきました。
SPドラマで、倫子さんが「終わるわけないだろ こんなに面白えこと」と言っていたのがめちゃくちゃ格好良かったけれど、世界中の料理人の方々はまさにこんな初期衝動のようなものに突き動かされているのではないでしょうか。
私たちも目の前の日々の生業と人に誠実に向き合っていこう…いつかそんな職人のみなさまが作られる唯一無二の空間と時間を体験しに伺えるように。