「ヨーロッパのエスプリが香り立つ食と人生の物語」美食家ダリのレストラン 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
ヨーロッパのエスプリが香り立つ食と人生の物語
偶然、同じ季節に公開されるフレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー映画『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』と同じくシェフと厨房が主な舞台になっているものの、こっちは事実とフィクションを上手に配合し、そこに独特のユーモアを振りかけてこれまた格別の味わいだ。
独裁政権が崩壊したバルセロナを脱出し、海辺の街にあるレストランで働くことになったシェフとその弟が出会うのは、当時"シュルレアリズム(超現実主義)の権化"として話題作を連打していた芸術家、サルバドール・ダリを崇拝するレストラン・オーナー。料理に命と人生を賭ける天才シェフと、ダリが好き過ぎて店の名前も"シュルレアル"にしてダリの来店を心待ちにしているオーナー。そこに、姿を現しそうでなかなか現さないダリのユーモアとミステリーが絡んで、映画は夢を追うこと、童心を持ち続けること、美味しい料理がもたらす人生の新たな可能性を描いて、心底心地よい気分にさせてくれる。こういうヨーロッパ映画(スペイン製作)を年に後数本は観たいものだ。
シェフは"世界一予約が取れない店"と言われるスペインの三つ星レストラン、"エル・フジ"のシェフ、フェラン・アドリアがモデルで、監督のダビッド・プジョルは"エル・フジ"のドキュメントとダリに関するドキュメントを手掛けたことがあるのだとか。蓄積した事実に上にこそ極上のドラマが生まれる。一流の料理には上質の素材が不可欠なのと同じだ。
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