十一人の賊軍のレビュー・感想・評価
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映画三本分・血と生首・山田孝之
人足姿の山田孝之が疾走するオープニング、つかみは完璧。しかし中身は、少なくとも映画三本分のストーリーと登場人物を、人斬りと爆弾と血と生首で混ぜ合わせた150分。長い。
山田ら10人の「罪人」が、無罪放免の約束と引き換えに決死の戦いに身を投じる話かと思いきや、途中から、彼らと行動を共にする侍(仲野太賀)を主人公とする正義のヒーロー譚のようになっていく。さらにこの戦いをつくった張本人-戊辰戦争で苦悩する弱小藩のマキャベリスト家老(阿部サダヲ)-の話もほぼ同程度の重みをもって描かれる。ぐちゃぐちゃドロドロ血みどろ。
しかし個々のストーリーや登場人物は十分に魅力的だ。罪人たちの傭兵軍団にしぼって一段掘り下げれば、もう一つの(闇の?)『七人の侍』ができそう。この軍団、山田の演じるタフな一匹狼を筆頭に、インテリ、二枚目、ムードメーカー、老人、「バカ」、女、と分かりやすくキャラ設定され、それぞれの役者がいい味を出していて(特に、インテリ役の岡山天音、ムードメーカー役の尾上右近)、観客をぐいぐい引き込む。そして何といっても山田孝之。実際はそんなことはないのに、ド迫力のクローズアップを見続けたような印象が残る。巨大スクリーンを一人で支配してしまう。千両役者と、それを撮りきったカメラに喝采。
映像は凄い
プロットからして予想はしていましたが、想像以上に「七人の侍」でした。それも薄味の…。
作戦が上手くいったら無罪放免をエサに集められた罪人たちと、彼らを率いる侍で決死隊を結成し、激闘を繰り広げる。最初は牽制し合っていたけれど、次第に絆がうまれ…的な、テッパンで男臭く熱いストーリーのはずなのですが、イマイチ燃えてこない。決死隊が闘う動機がイマイチ弱かったり、全体像(城代側のあれこれ)が若干複雑で状況把握がし難かったり、登場人物が多いことで一人一人の掘り下げが弱く感情移入や愛着が湧いてこないのでクライマックスの盛り上がりも微妙だったり…。(やたら強い爺ちゃんはカッコ良かった)
と、結構不満も多かったけれど、戦闘シーンは迫力がありビジュアル面では満足度は高かったので、映画館で観て良かったです。
主役は完全に仲野太賀さんだったな〜。
こうするしかなかった!
というバカ殿を抱えた家老の孤立無縁の民を守るための苦肉の策に…。
2人の主人公と罪人の女性以外は時代的に御法度の罪人。この時代、領民を守るための苦肉の策と考えれば…。
仲野太賀の演技の伸びに脱帽です。
結構エグい
白石監督の作品らしい描写でした。
虎狼の血、仁義なき…観てまして、冒頭の入り方とか闘いの様子とか迫力とリアルさがあって怖かったです。
時々クスッとなるような事もあり、面白いんですが戊辰戦争をよく知らないので説明が簡素でストーリーがよく分からないとこもありました。
仲野太賀さん…この人すごいですね!ほんとにどんな役もこなしてですね(笑)
山田孝之さん、玉木宏さん…目力ありすぎて目だけで心情とか表現されてさすがです。
芸人さんも出演されててお笑いの時とは180度違う人に見えました。
千原せいじさんがお坊さん役だったのですがお経が「南無阿弥陀」しか言わないのがちょっと気になりました(笑)
身分や立場で優先する物が違う時代があったと分かる作品です。
士の砦
幕末モノとゆーことで、なかなかふだん観ないのですが、今もっとも勢いのある仲野太賀がW主演とのことで。
戊辰戦争で新政府軍と旧幕府軍の間で板挟み状態となった新発田藩はどちらに就くかで揺れていた。御家老の溝口は家臣の鷲尾にとある提案を持ちかける。
2時間半の中で起きる罪人たちによる決死隊の孤立無援の戦が泥臭さと人間の性を見事に描いている。家老溝口の言葉に望みを託し、官軍(新政府軍)と同盟軍(旧幕府軍)の睨み合いの渦中に起きる謀。
希望があれば藁にも縋る。縋った先に待っていたものは…少しテンポが悪く感じるけど、その分丁寧に状況の変化が描かれてるのも良い。
要所、要所での見どころ、クライマックスにかけて鷲尾と砦の罪人たち、それぞれの生きる理由を胸に立ち向かう様が!残酷さも厭わず、ただただ生への執念と誠の士の姿を見れた気がする。
阿部サダヲの異次元さに気づけるかどうか
モブキャラ扱いではなく、一人ひとりの人生を浮かび上がらせて欲しかった
牢で死罪を待つ10人の罪人たち。彼らにある提案が持ちかけられます。「決死隊として山の砦へ行き、数日間、官軍を食い止めろ。もし生き延びることができた者は無罪放免を許す」
罪人たちは引っ立てられるように、否応なしに全員砦へと連行されるわけですが、できればここは志願制にして欲しかったところです。このまま牢で死罪になるのをただ待つのか、それとも万に一つの可能性にかけて決死隊に志願するか。連行されるのと自分で志願するのとでは全く盛り上がり方が違います。残念。
寄せ集めの罪人軍団は全く統率が取れません。引率役の武士の言うこともロクに聞きません。こんなんで戦えるはずはなく、リアリティがありません。罪人軍団はただ行き当たりばったりに右往左往しているだけで、戦略も戦術もありません。そもそも銃など触ったこともないはず。元武士である爺っつぁんをリーダーに指名して、彼に統率させるべきではないでしょうか。残念。
侍殺しの政と火付けのなつ以外の8人は牢に入る前のシーンが全く描かれません。互いの会話の中で少し素性が明かされる程度。彼らがどんな人物でどんな罪を犯したのか、全く分かりません。そのため一人ひとりに感情移入できないし、せっかく壮絶な死を描いたところで、悲壮感がありません。ただのモブキャラの死に見えてしまいもったいないです。これが本作の最大の欠点ではないでしょうか。短くてもいいので一人ひとりにもっと焦点を当てて、その人生を浮かび上がらせて欲しかったです。スター俳優ばかり前面に立たせてしまうのは邦画の悪い癖ではないでしょうか。残念。
本作の主人公、人足の政(山田孝之)は口の聞けない妻に乱暴した新発田藩の侍を殺した罪を負っています。彼の恨みは新発田藩の侍だけ、その他はどうでもいい。隙あらば一人で逃げ出す。当初の政はそんなキャラです。それが「下郎どもっ!」と叫んで官軍めがけ爆弾を投げ下ろしたり、いつの間にか中心人物に。何度も逃げるチャンスがあったのにわざわざ戻ってきます。政の立ち位置がブレまくりです。自分を兄と慕うノロに情が湧くのは分かりますが、まさか新発田藩の侍である鷲尾兵士郎(仲野太賀)に友情を感じてしまったのでしょうか。山田孝之はいつもの仏頂面のぶっきらぼう演技で通しますが、彼の心の動きがよく分かりません。2大スターを前面に押し出す演出が鼻につき、山田孝之の「無敵のヒーロー感」が邪魔をしています。ただの人足には見えません。本作の登場人物たちは生きた人間と言うより漫画のキャラのようです。そもそも侍を後ろから刺殺したら捕まらずその場で手打ちになるのではないでしょうか。侍を殺すよりも傷を負わせただけにして、その恨みを持つ侍も引率役として砦に行くことにしたほうがよりドラマが生まれたのでは。残念。
身重の新妻がノコノコ戦場にやってくるのもどうでしょうか。武士の妻が足手まといになるような真似をするでしょうか。途中で「無罪放免」の約束が嘘であることがバレ、侍同士が仲間れしてしまいますが、必要でしょうか?一緒に最後まで戦い、生き延びることができてホッとした後に仲間割れしたほうがより非情感が増したのでは。全体的にウェットな演出が目につきました。もっとドライで悲壮な演出を期待しましたが、今の時代には無理なのでしょうか。あと、説明過剰なナレーションも不要だと思います。親切すぎ。残念。
やっぱ太賀くんは上手いわ。
官軍のアイツの存在感が良くも悪くもある作品
普段髪もないのに出てくるなり赤髪の被り物というキャラクター。良く幕末もので見る赤だったり白だったりするアレですね。
まぁそれはともかく、たった十数人で敵軍を足止めするとかいう、死にに行くのが見えている展開ゆえに、そりゃハッピーエンドという結末はありません。ひとりまたひとりと死んでいき、結果として主要人物は誰一人幸せになってないという切ない映画。
映像が激しく動く上に夜闇の中で動き回るシーンは正直何が起きてるのか分かりにくかった。あとはノロがあれだけ長時間心肺停止状態だったのに、勝手に蘇生されたのは意味不明。でもまぁそれなりしっかり作り込んであって見応えのある作品ではありました。
阿部サダヲも憎まれ役とは言え、藩のために覚悟を決めてアレだけやったのに、最後報われなかったなぁ。それでもあんまり同情もせんなぁ。
意外と
予告映像を見たら、
「別にドラゴンアッシュ嫌いじゃないけど、
時代劇にロックとか正直安っぽい
B級映画みたいなかんじだなぁ・・・」とおもい、
ただせっかく地元が舞台だし見てみようかと
あまり期待しなくて観たのですが、けっこう面白かったです
「黒い油」が出てくるのも
地元民ならあそこは油が出てたこともわかったり
(それだけですぐゲームみたいに
スーパー爆弾が作れるようになるかどうかはわからないけど)、
「長岡藩」は小さいわりに譜代だから
周りの藩に対して偉そうだったとか、
ただドンパチやってるだけじゃなく
意外と郷土調べてやってるのかなと
それと意外と単純な話ではなく、
例えば残酷なことをしてるような
阿部サダヲの役の新発田藩の家老も、
佐幕一行に「こいつやべぇ」と思わせるために
首を切りまくるのを、
死にそうなコレラ患者ではなく
(十分酷いし、移らないのかな?とか少し思ったけど)
本物の農民を首を斬っていれば
ことは上手く運んだのだろうけれど、
農民を首を斬るのはさすがに忍びなく
(一揆に悩んだ土地柄だから、
それも警戒したのかもしれないけど)
その慈悲がヘンな風に動くような、
善いことが善いことにならないのは
それは時代背景なのか
世の中一筋縄ではいかないものなのか、
むずかしいよなぁと思わせられたり
コレラ患者だったことを
佐幕派に看破されたことで、
サダ家老は「半端なことするとヤベェ!!」となり
皆殺しという流れのひとつの理由にも
なったのかなとも
(いやそもそも農民と罪人は違うか?)
大方の庶民にとっては
結局こういうのも
ヤクザ同士の抗争と大差ないというか
なによりも「巻き込まれたくない」ってのが
一番だったのかなとも
あの中で一番それを思ってたのは
残酷で卑怯者に描かれてるけれど
いろんな思惑がありつつもサダ家老なのかな?とも思えるのは、
ただのヤクザ映画とは違うかな
多少は誇張も入ってるんだろうなと思ったり
いやそれとも実際はもっと酷いのかな?とも思ったり
いったりきたりしつつ、
鼓膜が破れるような爆音や
地雷で手足があっさり吹っ飛ぶ
リアルな戦場も自分にとっては非日常だから
なにがリアルかも想像できない
想像力の欠如した自分ではあるけれど、
しみじみと平和で良かったと
ありきたりで平凡な
小市民な感想を持った次第です
【”黒い水。そして隠し砦の十一悪人。”生首ゴロゴロ、大爆発シーンテンコ盛り作品。大迫力の殺陣のシーンも良きかな。特に仲野太賀は、流石であった。けどさあ、白石監督だから書くけれど<以下、自粛>】
ー あのさあ、白石監督作品だから書くけれど、今作面白かったのだけれど、小藩の悲哀に焦点を絞るのか、大迫力の大爆発シーンや殺陣のシーンに焦点を絞った方が良くは無かったかなと思った作品である。あとは、罪人のキャラ立ちと言うか、拝啓の描き込みが今一つだったかな。(除く、山田孝之演じるマサ。)-
■戊辰戦争時、新政府軍と旧幕府軍との板挟みになった小藩、新発田藩の家老溝口(阿部サダヲ)は、奇策を思いつく。
新発田藩は、新政府軍と対立する奥羽越列藩同盟に加入しているが、新政府軍に入りたいため、彼は藩士の鷲尾(仲野太賀)や入江(野村周平)に命じ、口の不自由な妻を新政府軍に寝取られたために武士を殺したマサ(山田孝之)や、イカサマ師、怪しい坊主、長州脱藩の槍の使い手など死罪を言い渡された者たちを使い、新政府軍の奇兵隊を迎え撃ちつつ、一方では新政府軍に取り入ろうとする。
そして、巧く行った時には、罪人たちを皆殺しにしようとしていた・・。
◆感想
・ご存じの通り、奥羽越列藩同盟に加入していた長岡藩では、多勢の新政府軍に抗いつつ武装中立を目指し、民の生活を守ろうとした。
この辺りは、中心人物であった河井継之助を役所広司が演じた「峠 最後のサムライ」で詳細に描かれている。
・今作では、その辺りの描き方が粗いので、史実が頭に入っていないと新発田藩の家老溝口の行動が、分かりにくいのでは?と思ってしまったな。
■私が思った事は冒頭に記載したが、私だったらエンターテインメント感をもっと前面に出した方が良かったのかのではないかな、と思ったな。
けれども、湧き出る”黒い水”を使った大爆発シーンの迫力や、藩士の鷲尾が罪人たちが必死に政府軍に抗う姿を見て、溝口率いる新発田藩の部隊に剣で立ち向かって行くシーンは、仲野太賀の物凄い形相と剣を上段に構え斬りかかって行く姿は迫力があり、見応えがあったなあ。
しかし、そんな鷲尾も溝口の銃に斃れるシーンは、正に”最後のサムライ”って感じで、哀しかったな。
<新発田藩を守ろうとした家老溝口を演じた阿部サダヲの非情ながら悲壮な姿と、藩士の鷲尾との対比や、溝口が自身が画策した事により戦死した入江の子を宿していた娘(木竜麻生)が自害するラストシーンなどは、何とも言えない気持ちになった作品である。
戊辰戦争って、ホント、悲惨な話が多いのだけれども、この作品はもう少しエンターテインメントに振り切って欲しかったなあ、白石監督!。でもね、大迫力シーンの数々は、面白かったよ!。じゃあね。>
血の海と爆発と大音響がお好きならどうぞ‼️❓
好きなんだけど……
好みな作品でした。
ただ11人側の各人物の掘り下げが浅く感情移入しにくい。主役?の山田孝之の役はあんなんだし…
それでいて長い。飽きずに見れたけど見終えた後に長かったなぁと真っ先に思いました。
話の展開は単調にならず良かった○
(間延び感は否めないけど)
リアル?な残酷描写も個人的には○
鞘師里保、めっちゃ良かった○
(あまり知らなかったけど)
仲野太賀も良かった○
山田孝之の役が見てていい加減イライラしてきた✕
(何度も同じ展開でまたかと)
それでいて終盤は賊軍側のセンターポジションで一丁前のセリフを(お前が言うなと心のなかでツッコミ)
新発田藩側のやり取りは良いけど全体的に浅く感じてしまった✕
この尺ならもっとやりようがあったのかなと、好みな作品だったので注文つけたくなったが楽しめたので
○○人のホニャララ
東京国際映画祭が開かれているこの時期、私がよく利用する中央区の映画館はその劇場としても使われているため、スケジュールやシアターの割り当てがいつもに比べるとややタイト。今週、私が注目していた作品第一候補は残念ながら観やすい条件ではなかったため、第二候補のこちらをTOHOシネマズ日本橋で鑑賞です。ファーストデイでしたがあまり客入りは良くありません。
本作、原案は笠原和夫さんということもあって、白石和彌監督による『仁義なき戦い』オマージュが確かに感じられる作品となっております。とは言え、ルックはしっかり時代劇感があって前作『碁盤斬り』(同監督の初の時代劇作品)からのアップデートも感じます。また、脚本も池上純哉さんの堅実な仕事で、史実を基に無理を感じないオリジナルストーリーは観ていて違和感を感じさせません。正直、予告編からはもう少しスペクタクルでエンタメに振っているのかと思いきや、案外硬派に作られており見応えがありました。
そして「○○人のホニャララ」と作品名が付けば、当然その人数に該当する者たちのキャラクターはしっかり立てなければなりません。今作はそれが「死罪を目前に待つ罪人たち」で構成されており、もれなく個性豊かな人格と特技で雑なキャラがいないところも秀逸です。特に思い入れ強めに観ていた3名から、まずは尾上右近さん。序盤こそ「ちょっとやり過ぎかな」と思える演技も、演じている「赤丹」という人となりが解るにつれて、右近さんの演技プランや白石監督のキャラクター演出に納得がいきます。やはり歌舞伎役者ということもあり所作も完璧で素晴らしいです。次に「爺っつぁん」こと本山力さん。刀を構えただけでもう強い雰囲気バリバリでおっかない。中野太賀さん等皆さん、殺陣を相当に練習されたようですが、本山さん一人、ずば抜けて格の違いを感じます。観終わって調べればそれもそのはずで、この方「〝5万回斬られた男〟福本清三の後継者」と知り激しく納得です。そしてもう一人は「なつ」を演じた鞘師里保さん。私、この方もお姿を存じ上げなかったため調べて「ああぁ」と。以前、ラジオ番組で(確か)松岡茉優さんが「サヤシが、サヤシが」と興奮しながら連呼していて記憶にありましたが、この方でしたか。とても雰囲気を感じる演技は、決してまだ「巧い」というレベルではないかもしれませんが、とてもポテンシャルを感じますし、何なら思いのほか魅了されました。特に最後のシーンは涙腺を刺激されるほど。今後、更に良い「俳優」になっていきそうで今後に注目です。
と言うことで、充分に楽しめた本作。ケチを付けるわけではありませんが、最後にどうしても気になったこと二点。一つは「生首の重み」が感じられないシーンが幾つか。恐らくは見た目のリアルさだけでなく、重さも実物に寄せているのではないかと想像するのですが、その扱い方によっては軽く見えてしまうような気がして若干ノイズです。まぁ、この作品に限ったことではありませんが、時代劇にとっては重要アイテムの一つなのでどうしても。。もう一つ、「これフリかな?」と思ってしまったシーン(結果、そうではなかったのだけど)。必死で同盟軍の疑心を躱そうと苦心する溝口内匠(阿部サダヲ)。家老自ら白洲に出て行う「アレ」に付き物の「とある演出」を見て「健康被害はないの?」と心配(w)になりました。
圧巻の殺陣。それ以外は非凡な白石作品
痺れるほどに格好いい泥臭さ
犯罪者たちのバックボーンがなかったことが残念。
十人の犯罪者と一人の剣術家で砦で足止めするのだが、犯罪者らしい?粗野で無頼な振る舞いがなどがあまりなく、とても無法者集団に見えなかったため迫力が今一つ感じられなかった。
それぞれの罪状をよく見ると強盗殺人と辻斬り以外は密航、姦通、賭博、一家心中、脱獄幇助などとても極悪人とは言えない連中が大半の集まりだったので、それぞれの得意技(ノロの花火など)をもっと活かしながら立ち向かうというストーリーにすれば、より個々が掘り下げられ感情移入でき、尺も長く感じることもなかったのに・・・。
ノロ役の佐久本宝くんは難しい役を上手に演じ達者さを感じたが、白く綺麗な歯並びを見るたびに残念さの方が上回った。
阿部サダヲさんの内に秘めた狂気の表現が怖く、途中から目がイっちゃっておりなかなかの見応えだった。
グロく暴力的な描写が得意な白石監督だが、本作も腕が切り落とされたり肉片が飛び散ったりと、救いようのない物語を言いようのない無情さと残酷さでエンタメ感を後押しした面白い映画でした。
戦いと裏切り。
仲野太賀の目がヤバい!
前作「碁盤斬り」のレビューで「白石和彌史上最もマイルドな映画」と書いた。が、最新作でもある本作「十一人の賊軍」は白石作品のイメージ通りとでも言いますか、エグみとグロさ全開バイオレンスのアクション時代劇。苦手な人はとことん苦手だろう。振り幅がヤバい。
ただバイオレンスなだけではなく、立場や考え方を異にする者たちが「やむを得ず」共闘し、必死になってわずかな希望を求める物語でもある。
誰のどんな立場に思いを馳せるかで、見えてくるものが変わる。新発田藩の侍3人は、家老・溝口(阿部サダヲ)の考える足止め作戦を成功させたい。道場を構える鷲尾(仲野太賀)は旧幕府軍として官軍を迎え討つ任務を全うしたい。罪人たちは「勝てば無罪」の約束を信じ生き延びたい。新発田藩士に女房を襲われた駕籠屋の政(山田孝之)は死んでも作戦に協力したくない。
砦の攻防に参加する面々だけでも、大まかに分けてこれだけ差があるのだ。さらに外側では進撃してくる官軍、新発田藩に出陣を迫る旧幕府軍、まだ若年の藩主などの思惑も錯綜する。
それが映画の中であらわになっていき、それぞれの感情や考えが絡み合って物語を推し進めていく。
その視点の切り替えは登場人物の目線で捉えた映像によって、スムーズに行われているのだ。
例えば、火付けで捉えられた女のなつ(鞘師里保)が、脱走しようとして手枷を嵌められた政に握り飯を渡すシーン。なつが政を見下ろす目線で、歩くリズムにあわせてカメラも揺れる。我々の視点がなつの視点になり、その後のシーンは彼女の気持ちの方に引っ張られるのだ。
ただでさえ苦しい生活の上、亭主はお縄。女郎か乞食しか選択肢のない人生。復讐なんてしなくて良い、ただ二人で支え合って生きていけたなら…、そんな政の女房の気持ちを彼女が代弁する。
だから「残してきた女房を助けられるのはお前さんだけ」というセリフが、上っ面ではない説得力を生む。
興味深いと思ったのはノロ(佐久本宝)の存在である。
ノロは白痴でそれが故に巡り巡って賊軍の一人となるのだが、罪人の間でも、罪人を率いる侍の間でも、いわゆる「おまめ」のような扱いをされている。「ノロはノロだから仕方ない」というような。
かと言って、「足手まといだから早々に始末しよう」ともならず、ふらふらしていても必ず誰かが面倒をみてくれているのだ。
ラスト近くでは政に「オメェは呆けだから大丈夫だ、殺されたりなんかしねえ」とも言われている。
無害だから狙われない、と。
罪人だから使い捨てにしても構わんだろう、からスタートする物語の中で、ノロは見捨てられない。
対比のように、少数の「役立たず」を見捨てることで藩と領民を守ろうとした溝口は、最も守りたかったものを失うことになる。それはむしろ溝口自身が彼の大切なものから「見捨てられた」結果であるとも言えるだろう。
勝ち負けだけが「正義」を決める時代の中で、官軍も旧幕府軍も罪人も、全員が「勝利」という名の希望をもぎ取ろうとしていた。手段を選ばずに邁進するもの、勢いと人数に任せるもの、理想と忠義に身命を賭すもの、目先の条件に釣られるもの。
だが、最後の最後に、勝利することよりもっと大事なものが出来てしまったのが政と鷲尾だったのかもしれない。
二人が最後に選択した行動だけは勝利とは程遠く、勝てないのであればそれは「賊軍」と見做されるものだからだ。そして二人とも「それで構わない」という覚悟だった。
「孤狼の血」のレビューにも書いたが、相変わらずアップの迫力が凄い。ゴア表現やバイオレンスを特徴のように言われる白石作品だが、本当に特徴的なのは毛穴まで見えそうなアップの使い方だ。感情にフォーカスする時、そのキャラクターの息遣いや鼓動が聞こえそうな気さえしてくる。
今回は山田孝之と仲野太賀のW主演で、当然二人のアップはかなり多かったのだが、物語の中で最も翻弄された鷲尾を演じた仲野太賀の目や表情には、鬼気迫るものを感じた。
実直で、一本気な鷲尾のキャラクターを支えたのは間違いなく仲野太賀の演技力だろう。
バイオレンス表現が炸裂する今作だが、キャラクターの心情が入り乱れる人情味あふれるヒューマンドラマでもあり、胸が締め付けられて思わず落涙してしまったシーンもある。
個人的に白石和彌のファンでもあり、今最も新作を心待ちにしている監督がコンスタントに重厚な映画を撮ってくれるのは嬉しい限り。
次回作も超超期待してます!
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