「60分削ってください!いや30分でもいいです!」十一人の賊軍 しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
60分削ってください!いや30分でもいいです!
本サイトの特集によると、60年前の幻のプロットを起こし、「孤狼の血」で東映ヤクザ映画を現代味に復活させた白石和彌監督のもと、今度は、東映集団時代劇を復活させた、という触れ込み。
そんな企画は大体、プロットが勝りすぎて時代遅れになったり、プロットが今どきの忖度に薄まり、味がしなくなったりと良いことはない方が多かったり、オレ自身が「孤狼の血」をそんなにかっていないのと、NETFLIXの「極悪女王」があんまりおもしろくなくてガッカリしての、期待値は結構下げての鑑賞。
舞台は戊辰戦争。東京映画祭オープニング作品。戊辰戦争の意味がどれだけ国際映画祭に通じるか、そしてその価値はあったのか。
「十一人の賊軍」
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東映集団時代劇というと、1989年の「将軍家光の乱心 激突」ぐらいしか見たことはないが、当時高校生の自分でも、「ザ・痛快・時代劇」、チャンバラと火薬を堪能した記憶がある。
全体的には、同じように名もなき者たちが、権力闘争、時代の渦に巻き込まれ、奮闘する、というものになるので、アツイものを感じられる。そして、「孤狼の血」がおおよその評価として認められた白石監督であって、本作も現代風に「アップデート」とは言わないが、見ごたえのある作品に仕上がっている。
とはいえ、いかんせん長すぎる。
戊辰戦争という、国際映画祭に上映するにはいささかわかりにくい舞台設定について、ちょっと説明が足らない部分はまあいいとして、官軍側の描写が多すぎ。これらと新発田藩士側の人名に字幕がついたりと、「名もなき」賊軍との比較、ということかもしれないが、結局ノイズ。
さらにサダヲの連続断首のエピソードも要らない。サダヲの娘も必要ないし、賊軍の女も要らない。主人公の妻の聾唖の設定も要らない。
もっと要らないのは、最初のチャンバラ。暗いし、ウェストショットのアクションばっかりで、(これは役者の殺陣の技量によるかもしれないが、)ちっとも盛り上がらない。(NETFLIXの「極楽女王」でも感じたのだが、どうにもアクションの撮り方が単調に見える)
これらを切るだけで60分、いや30分は短くなる。
とはいえ、後半、俄然盛り上がってくる。嵐の中のつり橋攻防からだ。
「黒い水」と「つり橋」で、こっちは勝手にフリードキンの「恐怖の報酬」、あるいはせめてコッチェフの「地獄の七人」やってくんねえかな、と思ったら、やってくれました!!ありがとう!!どうせなら、油井まで嵐の中つり橋で重機を渡す、みたいな展開だと感涙までしたはず。それぐらい嵐のつり橋シーンはよかった。
そして、峠での決着をもっての、仲野の独壇場。ここはカメラはしっかりと白昼の下、ロングショットで立ち回りを見せる。
結末はある程度想像つくものではあるが、テイストは「アメリカン・ニュー・シネマ」である。そして一騎討ちをカタルシスとせず、道場で鍛えられたはずの家老サダヲの行動が、戊辰戦争の結果を端的に表す。そのためにも主人公孝之はひっそりと意味もなく、火薬とともに見せ場を譲る必要があった。
イヤほんと、前半全部要らないって。
追記
「名もなき者」の奮闘で世界が救われる、は「アルマゲドン」が至高と思ってるぐらい、程度の低いオレだが、賊軍にそれなりの技量があっての集団でなければ「アルマゲドン」の域には達しない。本作に説得力の希薄さや嚙み合わせの悪さを感じるのは、一概にそのせいだ。
追記2
この手のエンドクレジットは、それぞれの顔と名前をワンカットごとに挟みましょうよ。娯楽色がもともと強い企画なのだし、そもそも登場人物が全く印象残らないくせに、何の役にも立たないのに「医者」だ「詐欺師」だ「坊主」だとか説明する時間は全部省いて、エンドクレジットでドン、で十分。むしろそのほうがかっこいい。
というか、かっこいい、と言っちゃダメなんだろうな。