十一人の賊軍 : インタビュー
山田孝之×仲野太賀が体現した、俳優としての“信念”
映画「十一人の賊軍」には、いくつもの“めぐりあわせ”があった。ひとつは、「仁義なき戦い」などで知られる名脚本家・笠原和夫が遺したプロットを白石和彌監督が見つけ、60年以上の時を経て映画となったこと。その白石監督が「自分を映画監督にしてくれた人」だと言う山田孝之と「凶悪」から十一年、再びタッグを組んでいること。そして、名実共に日本映画界を牽引する俳優・山田孝之と仲野太賀、先輩後輩による主演であること。主演のふたりが俳優としての“信念”について語る。(取材・文/新谷里映、撮影/間庭裕基)
■作品選びの基準は「自分がワクワクするか、それのみ」(山田孝之)
数多くの映画やドラマにその名が刻まれている山田だが、作品選びの基準はとてもシンプルだ。「自分がワクワクするか、それのみですね」と、きっぱり言い切る。「オファーを受けたとき、その前にどんな作品に出ていてどんな役を演じていたかにもよりますが、自分がワクワクするかどうかを重要視しています。監督・共演者・脚本がどうこうではなく、(そこに興味があっても)今じゃないなっていうのがあって。そのときの自分が100%乗れるかどうかなんです。今回、白石監督とは十一年ぶり。やっぱり過去に仕事したことのある監督から、もう一度オファーをいただけるのはすごく嬉しいし、太賀と芝居ができることも、すごく嬉しかったし楽しみでした。太賀の芝居、もう最初から最後まで本当によかったですね」
山田の感想を「嬉しいなあ」と、しみじみと噛みしめる仲野。「僕は、白石監督といつかご一緒してみたいと思っていたので、今回のオファーはすごく嬉しくて。さらに蓋を開けてみたら孝之さんとダブル主演! これまでも共演は何度かありますし、同じ事務所でお世話になっていますが、自分が芸能界に入りたいと思ったきっかけでもある孝之さんとダブル主演というのは、ほんとうに感慨深くて。最初から最後まで勉強になることばかりでした」
山田と仲野が演じるのは、作品タイトルにもなっている十一人の賊軍のメンバー、「政」と「鷲尾兵士郎」だ。政は、妻を新発田藩士に襲われ、その復讐によって罪人となる駕籠屋。兵士郎は、旧幕府派の同盟軍として新政府軍と戦おうとしない新発田藩に不満を募らせている直心影流の使い手。同盟軍と新政府軍(官軍)が同時に新発田に向かう事態が発生し、新発田を戦火から護るために“砦の護衛作戦”が企てられ、兵士郎は、政をはじめとする罪人たちを率いて砦で官軍を迎え撃つ。そんな集団抗争時代劇のなかで、それぞれの役を演じた。
■吊り橋の爆破シーンは巨大な送風機&大量の雨降らしでずっと水浸し
仲野の役づくりは、撮影の半年前から始まった。「兵士郎は剣術の達人という設定なので、殺陣の経験のない自分につとまるのか?説得力をもってやれるのか?というプレッシャーはありましたが、アクション部の方々のおかげで無事に撮り切ることができました」と仲野。本作のアクションではワイヤーやCGを使わない分、肉体的なスピード、殺陣の型、柔軟性、重みある表現などが俳優に託され、仲野にいたっては、1人で30人の敵と戦う大掛かりなアクションシーンにも挑んでいる。
一方、「政は、戦うというより逃げるアクションの方が多かった」と撮影を振り返る山田は、台本を読んだときから、身心ともに苦しい撮影になるだろうと覚悟していたと言う。「政は、罪人という人間扱いされない役だし、砦のシーンは爆破爆破の連続だし、撮影期間も4カ月間と長いし、大変な撮影になるだろうというのは覚悟していましたが、ちょっと度が過ぎるよねって、笑いたくなるほどでした。でも、やりがいのある現場でしたね」。愛情を込めて大変さを伝える。
なかでも山田の記憶に印象深く刻まれているのは、黒い水(石油)を掘り当てて体にかぶるシーンだと語る。「後半のシーンですが、撮影のために用意された黒い水は、絵の具と墨汁を混ぜたような水で、ものすごく臭くて。シーンとシーンの繋がりがあるので、黒い水をかぶった後は、その水が染み込んだ衣裳を纏うので、ずっと臭い。しかも政の衣裳の素材はマットで、その下はふんどし一丁。こんなに愛着のわかない衣裳は初めてかもしれないです(笑)。撮影が始まったのが8月で、暑いし、マットの素材は痒いし、さらにそこに臭いが加わってくる。本当に罪人(役)として扱われているなあと思いましたね」。ちなみに政をはじめ賊軍の衣裳は「ぶっ飛んだ衣裳、汚れても格好いい衣裳をつくってほしい」という白石監督の希望を叶えたものになっている。
仲野は、激しい雨風のなかで吊り橋を爆破する撮影を大変だったシーンとして挙げる。「これまで経験してきた雨降らしって、大抵は一発本番のワンカットで撮ることが多かったと思うんですが、この映画は違いましたね。オープンセットに作られた吊り橋(全長約30メートル!)のたもとでの芝居でしたが、巨大な送風機で風を吹かせて、大量の雨を降らせて、ずっと水浸し。数日かけて撮りました」
過酷を極める撮影のなか俳優たちの士気を高めたのは、山田のとある心遣いだったと仲野。「今回の撮影場所は、都内から片道1時間半程度離れた場所で、毎日通いだったのでうが……。孝之さんが俳優部のために、オープンセットの近くに家を借りて合宿所みたいな場を用意してくれたんです。賊たち(俳優部)は、そこで寝泊まりしながら現場に通う日々。頑張ろう!というエネルギーになりましたね。お芝居においても、政を演じる上での孝之さんのストイックさに痺れっぱなし。政を演じるというよりも政を生きる、その姿が圧巻でした」
仲野だけでなく、今作に出演する俳優たちも口々に「山田孝之に刺激を受けた、感謝している」と話している。近年は、俳優という肩書きにプロデューサーとしての活躍も加わる山田だからこそ、撮影現場をいかに“ワクワクする場”にできるかを試行錯誤していたのだろう。「失敗も含めて、学べるものは学んで、自分なりのやり方を見つけてほしい」と山田は言う。
「エンタテインメントを作るひとりとして、まずは自分がワクワクしなきゃって思うんです。作品選びにしても、この人は次にどんな役をやるんだろう、何を見せてくれるんだろうって思ってもらうには、まずは自分がそう感じなくてはならない。結果、傍から見ると、人がやったことのないことをしていたりするので、事務所としては、どうマネジメントしていいのか手を焼いていると思うけれど、(後に続く人たちにとって)山田に比べたらまあいいかと思ってもらえたらいいかなって。しっかり真面目で、本気でふざけている、そういう所もちゃんと分かってほしいですね」と語る隣で、「ほんと、影響受けてます!」と大きく頷く仲野。
この人が選んだ作品はきっと面白いに違いないと思わせる、山田孝之の先駆者としての歩み。山田に憧れて経験を積み、彼の隣に立つ仲野太賀の歩み。ふたりの俳優の歩みがかけ合わさる「十一人の賊軍」は、どうしたって魅力的だ。
この映画の舞台となるのは戊辰戦争の時代。新発田藩による歴史的な裏切りのエピソードをヒントに、生き抜くための戦いが描かれる。そこに込められたメッセージは、今を生きる我々にも響くと二人は伝える。
山田「いつの時代でも起きていることは変わらないですよね。力を持っている人たちが自分たちの考えで国を良くするために動いてはいるけれど、それに伴って(この映画の賊軍たちのように)使われる人たちがいる。彼らの、生きることに執着する姿を見せる作品だと思っています。政は、生き残って妻の元へ帰る、それが彼の正義のすべてだと思って演じました」
仲野「孝之さんが言うように、時代劇ではあるけれど、描かれているメッセージは決して遠いものではないと思います。そして、生きることへの執着を自分の体で表現していくことの過酷さというか、斬ることも斬られることも、日常生活ではもちろん現代劇でも感じることのできない感情を、兵士郎を通じて感じることができた。なかなかやれることのない気持ちの振れ幅でした」
映画から何を受け取るのかは人それぞれ異なるが、多くの人の脳裏に焼きつくのは、十一人の賊軍たちが必死に生きようとあがく姿、政や兵士郎の信念。キャラクターから滲み出るその信念は、山田と仲野が役と真摯に向きあい導き出した信念にほかならない。この二人の競演を見逃してはならない。