「丁寧で緻密な創りが秀逸」ホウセンカ 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
丁寧で緻密な創りが秀逸
「オッドタクシー」の木下麦監督と此元和津也先生がタッグを組み、“一発逆転”をテーマに描いた哀愁漂う極道物語でした。物語はバブル経済に沸く1980年代後半と現代とを行き来しながら進みます。兄貴分・堤(安元洋貴)の罪を被り、30年以上も服役を続ける阿久津実(戸塚純貴〈過去〉/小林薫〈現在〉)の人生が静かに、しかし確かな熱をもって描かれていました。
バブル期、阿久津は飲み屋のホステス・永田那奈(満島ひかり〈過去〉/宮崎美子〈現在〉)と、その連れ子・健介(花江夏樹〈現在〉)と同居していました。“一発逆転”を狙って不動産取引に手を出し、成功を収める阿久津。しかし、健介が心臓病であることが分かり、移植手術に莫大な資金が必要となったことから運命が狂い始めます。跡目争いの渦中、堤と共に組内のライバル・若松(斉藤壮馬)を殺害し、3億円を強奪。無事に健介の移植手術は成功したものの、阿久津は強盗殺人の罪で有罪判決を受けます。
以降、面会に訪れるのは堤だけ。那奈に手紙を送っても返事はない。やがて、強奪した3億円のうち、移植手術に使った2億円などを除く7千万円余りが行方不明で、阿久津がその在り処を知っているらしいと分かる。その金を狙う堤。阿久津はどうやって那奈に金の場所を伝えたのか?極道物にしては静的な展開ながら、金の行方をめぐるミステリーとしても見応えある構成でした。
そして最大の見どころが、題名にもなっている“ホウセンカ”。阿久津と那奈が暮らしていたアパートの庭に咲くその花は「喋る花」であり、生まれたばかりの赤ん坊や死を目前にした人間にだけ声が聞こえるという設定でした。このホウセンカ(ピエール瀧)が狂言回しのように登場人物たちを論評し、彼らの心情を代弁するさまは、人間の愚かさとか愛おしさを同時に照らし出しています。那奈が獄中の阿久津にホウセンカを送ったことで、“檻の中のピエールさん”という皮肉めいた状況にもなって、思わずニヤリとさせられました。
さらに本作は、オセロ、花火、方眼紙、地図、空き地など、一つひとつの小道具に確かな意味を持たせており、その構成の緻密さにも唸らされました。そして先輩・堤と後輩・若松の関係など、組内の人間模様や、大卒ヤクザという存在など、極道物らしく組内の細部の描写も地味ながらも実に丁寧。派手さはないものの、人物たちの感情がじわりと滲む演出が、文学的な深みを生み出していました。
残念ながら絵柄が好みではなかったのですが、それを差し引いても本年トップクラスのアニメだったのではと感じました。
そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。
