「すべては、主人公が死ぬ間際に見た幻なのではないだろうか?」ホウセンカ tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
すべては、主人公が死ぬ間際に見た幻なのではないだろうか?
無期懲役囚の主人公と、言葉を話すホウセンカとの、獄中でのやり取りが面白い。
ホウセンカは、死期の迫った主人公の幻覚なのかもしれないが、観客の気持ちを代弁するかのようなツッコミがいちいち的確で、おかげで、無骨で不器用な主人公の本音がよく理解できるようになっている。特に、同居している女性に想いを寄せているのに、籍も入れず、「愛している」とも告げられない主人公の姿からは、昭和の時代の男の美学のようなものが感じられて、その自己満足ぶりが、じれったくも微笑ましかった。
やがて、主人公と兄貴分が、組の事務所で殺人・窃盗事件を起こすに至って、冒頭から物語を引っ張っていた「大逆転」の正体が明らかになってくるのだが、それまで兄貴分に従順だった主人公が、いきなり兄貴分を出し抜く「頭脳派」に転じるところには、やや唐突感を抱かざるを得なかった。こういう展開にするならば、それまでに、兄貴分の「腹黒い」一面を、もっと強調しておくべきだったと思えてならない。
兄貴分の方も、ヒロインの息子が米国での手術を終えて、無事に帰国したことを伝える写真なり、ビデオレターなりを主人公に見せれば良かったのではないかと思えるし、それで兄貴分に7000万円を渡してしまえば、ヒロインと息子が、兄貴分に付け狙われることも無かったのではないだろうか?
そもそも、ヒロインが、主人公のことを「息子の命の恩人」と認識していながら、どうして30年もの間、一度も手紙を出さなかったのか理解に苦しむし、彼女が、30年も経った後に、突然、7000万円の在り処を見つけ出そうとしたことにも違和感を覚えざるを得なかった。
主人公がヒロインに送った7通の手紙の「黒塗り」にしても、ヒロインが、オセロに当てはめて塗りつぶしたのか、あるいは、主人公が、刑務所の検閲によって塗りつぶされるようにしたのかがよく分からす、「なるほど!そういうことか!」というカタルシスが得られなかったのは残念としか言いようがない。
そして、何よりも疑問に感じるのは、ホウセンカ経由で、「ヒントを教えて」というヒロインからの伝言を聞いただけで、彼女が7000万円を手に入れたことを知らないはずの主人公が、本当に「大逆転」を確信して、満足して死を迎えることができたのかということである。
このように考えてくると、言葉を話すホウセンカだけでなく、ヒロインとその息子の現在の姿も、死ぬ間際に主人公が見た幻なのではないかと思えてくるのだが、そうした解釈が、あながち見当外れでなかったとしても、心地良い後味の残るハッピーエンドであったことは間違いなく、それはそれで、良かったのだと思う。
それから、エンディングで流れる「スタンド・バイ・ミー」は、アレンジしたバージョンではなく、あの独特のイントロが確認できるオリジナル版を流してもらいたかったと思ってしまった。
あと、今まであまり意識したことがなかったが、満島ひかりの「声の良さ」を知ることができたのは、この映画の最大の収穫だったと言っても過言ではないだろう。
一番お金が必要な時期になんのサポートも出来ず、那奈の晩年になってお金が渡っても…ですよね。
息子に遺す意味かもですが、堤に狙われるし。
そう考えると、自分にはやはり阿久津は2人の“所有権”を得たかっただけに思えてしまいました。

