劇場公開日 2025年10月10日

「声優陣には「俳優」「声優」「芸人」が名を連ねるが、それぞれの発する「ことば」は趣が異なっていておもしろい」ホウセンカ えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 声優陣には「俳優」「声優」「芸人」が名を連ねるが、それぞれの発する「ことば」は趣が異なっていておもしろい

2025年10月15日
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鑑賞方法:映画館

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無期懲役囚の老人・阿久津が独房で孤独な死を迎えようとしていたとき、声を掛けたのは、人の言葉を操るホウセンカだった。“会話”の中で、阿久津は自身の過去を振り返り始める。

「お前たちが来た日のこと、よく覚えてるぜ」

1987年、夏。海沿いの街。しがないヤクザの阿久津は、兄貴分として慕う堤の世話で、6歳年下の那奈と、ホウセンカが庭に咲く素朴なアパートで暮らし始めた。生まれたばかりの那奈の息子・健介も一緒だ。縁側からは、大きな打ち上げ花火が見える。3人は、慎ましくも幸せな日々を送っていた。

「退路を断ったもんだけに大逆転のチャンスが残されてんだよ」

やがて土地転がしのシノギに成功し羽振りがよくなった阿久津は、享楽的に過ごし家を顧みなくなる。そんなある日、事態は一変する。阿久津は大金を工面しなければならなくなり、
堤と共に組の金庫にある3億円の強奪を企てるのだった―。ある1人の男の、人生と愛の物語(公式サイトより)。

劇場版が酷評された「オッドタクシー」のチームが再集結して制作した映画。バブル期終盤の日本を舞台に、現代日本に失われつつあるかつての「愛」「家族」「信」を独特の穏やかな世界観で描く。

本作の声優陣には「俳優」「声優」「芸人」が名を連ねるが、それぞれの発する「ことば」は趣が異なっていておもしろい。アニメーションと科白がこれ以上ないくらいぴったり合っているのが「声優」、アニメーションの裏にある人物像が透けて見えそうなのが「俳優」、アニメーションの科白より前のめりで届いてくるのが「芸人」、という具合だろうか。このそれぞれが心地よく共鳴し合って心地よい。

本作が実写化しなかった理由のひとつであろう喋るホウセンカは、「俳優」「声優」「芸人」、さらに「歌手」と言えそうで言えなそうなピエール瀧が演じる。なるほど確かに、何者ともつかない演技だが、本人曰く「宇宙人」を意識したというから頷ける。

調べてみると、ホウセンカには「わたしに触れないで」と「心を開く」という相反するふたつの花言葉があるらしい。ヤクザ稼業に最後まで触れさせずに、それもなおお互いが「心」を開いた日常と30年後の逆転ホームランがじんわり染みる。

えすけん