「シナリオの緻密性、伏線回収と展開の巧さは、90分の芸術的な作品を生み出している」ホウセンカ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
シナリオの緻密性、伏線回収と展開の巧さは、90分の芸術的な作品を生み出している
2025.10.15 アップリンク京都
2025年の日本のアニメーション映画(90分、G)
死にかけのヤクザが喋るホウセンカに過去を話す様子を描いたヒューマンドラマ
監督は木下麦
脚本は此元和津也
物語の舞台は、日本のどこか
しがない組のヤクザだった阿久津実(小林薫、若年期:戸塚純貴)は、ある罪で終身刑を言い渡されていた
30年前の彼は、安い一軒家に引っ越したばかりで、行き場のない那奈(宮崎美子、若年期:満島ひかり)とその息子・健介(花江夏樹、幼少期:ふじたまみ)を引き取っていた
彼には兄貴分の堤(安元洋貴)がいて、彼の世話を一心に受けていて、那奈との出会いも彼が起因となっていた
阿久津は絵がうまく、住み始めた自宅周辺の地図も自作していた
そんな彼に心を寄せながらも、那奈は自分と籍を入れてくれないことに不満を募らせていた
その後、若手の若松(斉藤壮馬)の台頭によって、阿久津も彼を真似るように土地ビジネスに傾倒していく
そして、自宅の近くにあった空き地を見つけては、所有権を得るために無断で小さな倉庫を置いたりもしていた
やがて、羽振りの良くなった阿久津は方々で金を浪費し始め、自分の子どもでもない健介との距離を置くために家を留守にすることが増えていった
そんな折、健介にある病気が見つかってしまうのである
映画は、健介の治療のためにヤバい橋を渡る阿久津を描き、さらにその後の堤との駆け引きを描いていく
そして、無期懲役となった身で那奈と健介を想いながら、孤独な30年間を生き抜くこととなった
死が差し迫った阿久津には傍にいるホウセンカ(ピエール瀧)の声が聞こえていて、会話も成り立っていた
ホウセンカは彼らの引っ越してきた戸建ての庭に咲いていた花であり、種子を通じて記憶を継承し、30年前から今まで彼らを見守ってきていた
ホウセンカは阿久津の大逆転を笑うものの、彼にはそれを成し得るという確信があったのである
映画は、かなり細かな伏線が散りばめられていて、無駄なシーンがほとんどない作品となっていた
方眼紙が頭の中に見える緻密性、それによって描かれた地図と、黒塗りを予期した手紙
オセロでは「白が那奈で、黒が阿久津」となっていて、勝負では真っ黒になったけど、手紙には「唯一の白い碁石」が残っている
さらに、所有権を得るために置いた物置が意味を成す30年後に魔法が解けるような演出があり、花火とホウセンカの散りざままでリンクしていた
そして、「Stand By Me」の引用によって、「人生最大の発見」を予感させ、電子レンジとガムテープで遊び心を加えたと思えば、後半の対比のシーンでは花火が音ハメのように楽曲を盛り上げていく
黒塗りの中に書かれた言葉は読めないかもしれないが、阿久津が塗りつぶしたメッセージは陽の光で読めるようになる演出があって、言葉足らずな阿久津の想いというものを知っていたかのように信頼している那奈がいた
ちなみにホウセンカの花言葉は「私にさわらないで」「短気」「心を開く」というものだが、前半の阿久津は那奈と距離を置きたがっていて、後半では弾けて心を開いていく様子が描かれていく
30年という時間がいくつかある花言葉の意味を辿っていくことになり、ホウセンカが弾けたと同時に阿久津の魂が那奈のところに届くというのも粋な演出だったように思えた
いずれにせよ、方眼紙が頭の中にあるかのようなシナリオになっていて、90分という凝縮された中でここまでリンクさせるのはすごいと思う
冒頭の花火では2Dっぽく見せるところから、3Dっぽくなるように演出されていて、モノの見方の角度を変えることを示唆していく
そう言った緻密なものの上に普遍的な物語があるのだが、堤と阿久津の心理合戦もとても興味深いものとなっていた
阿久津は堤の裏切りを予感していて、健介の命の担保のために金を奪って逃げるのだが、彼はその時すでに指名手配がかけられていた
これはすでにある筋に情報を流していたことを示唆していて、阿久津の裏切りをも想定していたように思う
だが、それすらも見透かしていた阿久津は、唯一堤に知られていない場所に金を隠すことに成功していた
堤がそれを見つけられないのは、30年経っただけではあの土地は阿久津のものにならないからであり、それゆえに調べても出てこないものだったのだろう
ヤクザの美談的な要素もあるものの、ホウセンカが喋るというファンタジー要素がそれを薄めている部分もあるし、アニメーションという表現方法も合っていたと思う
そう言った意味において、全ての要素を隈なく活かした作品になっていたのではないだろうか
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