劇場公開日 2025年10月10日

「人生を賭けた、温かくも切ない大逆転」ホウセンカ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 人生を賭けた、温かくも切ない大逆転

2025年10月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

楽しい

幸せ

■ 作品情報
監督は木下麦。主要キャストは小林薫、戸塚純貴、満島ひかり、宮崎美子、ピエール瀧、安元洋貴、斉藤壮馬、村田秀亮、中山功太など。脚本は此元和津也。企画・制作はCLAP。

■ ストーリー
独房で孤独な死を迎えようとする無期懲役囚の老人、阿久津実が、言葉を話すホウセンカとの対話を通じて自身の過去を振り返る物語。1987年の夏、阿久津はしがないヤクザとして、パートナーである永田那奈と彼女の息子、健介と共にホウセンカの咲くアパートで慎ましくも幸せな日々を送っていた。しかし、ある日突然、大金を工面する必要に迫られた阿久津は、兄貴分である堤と共に組の金庫に眠る3億円を強奪する計画を企てる。物語は、過去の出来事が現在の阿久津にどう繋がり、その人生がどのように「大逆転」へと向かうのかを描き出す。

■ 感想
予告で観たやわらかい絵柄と温かい雰囲気に惹かれ、公開初日に劇場へ足を運びました。とても素敵な作品で、期待を超える感動を味わってきました。

物語は、ごく平凡ながらも幸せな日常から、突然の波乱へと展開します。純朴で優しく、どこか不器用な阿久津が、人生の全てを賭けて愛する家族を守り抜こうとする姿に、深く心を打たれます。

特に驚かされたのは、阿久津の並外れた賢さです。法律に関する深い知識、兄貴への巧みな対処、そして手紙に仕掛けられた暗号など、彼の切れ者ぶりには目を見張るものがあります。むしろこれほどの知恵をもつ男が、なぜヤクザの世界に身を置いているのかと、ある種の疑問すら感じるほどです。

また、序盤から実に丁寧に伏線が張り巡らされており、それが物語の進行とともに見事に回収されていく脚本の秀逸さには、ただただ感嘆するばかりです。まさに人生を賭けた温かくも切ない大逆転劇であり、その強い思いが那奈にしっかりと伝わるラストシーンには、熱いものが込み上げてきます。

一見すると冴えないキャラクターデザインも、阿久津やホウセンカのキャラクター設定と絶妙にマッチしており、物語に深く浸るにつれて、その味わいを深く感じるようになります。劇場には10人程度の観客しかいなかったのが残念で、もっと多くの方にこの素晴らしい作品を観てほしいと強く感じます。しかし、本音を言えば、一人でじっくりと作品世界に浸り、周囲を気にすることなく心ゆくまで涙を流したかったです。

エンドロールで、ホウセンカの声がピエール瀧さんだと知り、その意外性とすばらしい演技に驚きました。一方で、一部で気になる演技が見受けられたのは、惜しまれる点です。やはり、メインキャストには本職の方々を起用するのが望ましいのではないかと感じます。

おじゃる