「Stand By Me」ホウセンカ ブレミンガーさんの映画レビュー(感想・評価)
Stand By Me
「オッドタクシー」チームの新作という事で否が応でも期待値が上がってしまいます。
無期懲役囚と喋るホウセンカの振り返りというそこに焦点を見出すんだ!という驚きと共に鑑賞。
特典はポストカードで庭先のホウセンカでした。
じわ〜っと染み渡る作品でした。
特異な設定なのに突飛な事にならず、淡々と人生を振り返っていくのが良いですし、お喋りなホウセンカが聞き手になって進んでいくというのも個性的で楽しかったです。
愛の物語としてもベタベタしないからこその良さがあったりとで微笑ましかったです。
最初の振り返りのシーンから阿久津さんと那奈の同居パートが描かれ、夫婦ではないんだろうなというのが察せつつも、どこか心地の良さそうな関係性が描かれていてほっこりしました。
那奈の息子の健介と共に過ごしていく中でも、どこかぶっきらぼうな阿久津さんがドギマギしながら過ごしていくのがとても良いですし、多く会話を交わさずとも幸せそうな雰囲気があって良いですし、その上で那奈がボソッとつぶやく言葉ひとつひとつにキュンとさせられたりもしました。
レンジやガムテープを外す音でのオトマノペがとても良くて、思わず体が横揺れしてしまいそうでした。
何気ない日常から出てくる音から気づく発見ってめっちゃ良いなと思いました。
阿久津さんが裏社会の人間ということもあって、兄貴分だったり子分だったりがいる中で、仕事が軌道に乗ってきてから那奈と少し距離ができてしまったりというところがもどかしいですが、健介の体の問題でようやくハッとなり、そして健介をギュッと抱きしめるところは思わず涙ほろりでした。
そこからの大逆転を目指してのアクションも、正解とも不正解ともいえない絶妙な結末に行き着いてしまうのも阿久津さんの人の良さなのかなと思うと良い意味でモヤモヤさせられました。
裏社会ならではの殺って殺られてだからこその緊張感が確かに走っていたなと思いました。
魂が時代をずっと行き来できるホウセンカだからこそ、これまでの阿久津さんや那奈の行動や捕まってからのその後も見えていたからというのもあって、那奈のその後が見えていたというのも良いなと思いました。
生まれたてと死期の近い人間にしか聞こえないからこそのメッセージが突き刺さってくるのも良いですし、聞き手がフランクなのも重くなりすぎないバランスになっていたのも良きでした。
兄貴分が何十年経っても追いかけ回していたりしながらも、那奈にしか伝わらないメッセージで残しているのも粋だなと思いました。
最後の最後で那奈のイラストの端っこに見えた"愛してる"は効きました。
それを言葉にして言って欲しかったけど阿久津さんはシャイなんだから…と思わず心がキューっとなりました。
作品を彩る音楽や、華やかな花火なんかも作品のしみじみした雰囲気に繋がっていて綺麗でした。
声優陣は本職ではない方々が多いですがめちゃくちゃハマっていて良かったです。
戸塚さんと満島さんの会話のラリーの落ち着きっぷりは凄まじいですし、小林薫さんの哀愁漂う感じも最高ですし、飄々としたホウセンカを演じたピエール瀧さんの声はクセになっちゃいました。
花言葉の意味合いのような、静かな大逆転を見せてくれた美しい作品でした。
90分で起承転結スパッと決めてくれたところも最高でした。
どんどん広がっていってほしいなと思います。
鑑賞日 10/10
鑑賞時間 11:05〜12:45
