「ただ無闇に走りたくなる映画」ひゃくえむ。 てんぞーさんの映画レビュー(感想・評価)
ただ無闇に走りたくなる映画
物語的には落ちぶれた神童の再起物でストーリーラインはシンプル。
主人公トガシは才能溢れる小学生時代とすっかりサラシーマン気質に染まった青年時代との対比が面白い。特に魚豊氏のキャラは顔面力が強いので小学生トガシはやたら貫禄がある。
ライバルの小宮は小学生時代はフォームも何もないドタバタ走りが可愛い。
そんながむしゃら小宮も成長すると才能が開花して陸上界のトップに君臨し、そしてやたら虚無な青年に変貌。同じくトップ層を張る財津と少し虚無キャラが被っているのが気になる。陸上でトップを走るとそうなっていくの?
見ていて良いと思ったのは、スタンバイに入る選手の様子を舐めながら競技場の様子をぐるりと見せ、また選手をクローズアップする中盤のカット。
選手だけにフォーカスするのではなく、選手が身を置く場所をじっくり見せてくれるので、そこに一緒に立っているような気分になって臨場感が上がる。モーションキャプチャーを取り入れた描画といい、全体的に細部の描き込みに余念が無くて素晴らしい。
ただ、テーマ部分の中心はわりと精神論なので、そこが引っかかる人はいる気がする。怪我はちゃんと治してくれ…とは思う。
しかしそれでも、這い上がってきたトガシと帝王小宮が直接対決するラストランは、物語的にも感情的にも熱量のピークで「今この10秒だけ走りたい」という選手の気持ちと観ているこちらのエモーションがピタリと一致する。
ラストショットは競り合うトガシと小宮。互いに「こいつだけには負けない!」と思っているかのような、これまで見せた事の無い良い表情でグッとくる。
陸上100m、10秒の中にこれほどドラマを詰め込むことができるのか。ただ無暗に走り出したくなる、そんな映画だった。
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