劇場公開日 2025年9月19日

「俊足スプリンターたちは、みな哲学者だった…」ひゃくえむ。 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 俊足スプリンターたちは、みな哲学者だった…

2025年10月7日
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鑑賞方法:映画館

難しい

驚く

斬新

冒頭は小学生編。ここで既に主人公のトガシは走ることに哲学を持っている。訳ありのようにも単なる変わり者のようにも見える転校生の小宮にその哲学を披露する。
中学生日本一の仁神もまた、自身の哲学を小学生のトガシに語る。
高校生編では、小宮の高校に講演に来た最速スプリンター財津が、小宮の質問に応えて生徒たちを前に観念的な持論を展開する。
社会人編では、ベテランの海棠が人生観に近いスプリンター理論をトガシに語り、小宮も自分が走ることの意味を財津に向かって話す。
そして、トガシは子供のころから信じていた信念に帰結したようだった。
100mを誰よりも早く走る、その10秒に人生を賭けて完全燃焼する彼らだから、哲学も生まれようというものか…。

小宮と出会ったことで初めて負けることの恐怖を知ったトガシ。誰よりも速く走ればすべてが解決すると信じる彼は、何も解決しない世界へ足を踏み外したのだろうか。
トガシと出会ったことで誰よりも速く走ることの恍惚感を知った小宮。新記録を出すためだけに走ることに没頭する人生を歩む。
二人にスプリンターとしての道標を指し示した先輩たちや、刺激を与えた後輩たち。
年齢も生い立ちも異なる男たちが、それぞれ孤独な戦いを経てついに選手権レースのスタートラインに並ぶという群像劇を、トガシと小宮の対比を中心に描いていく。
そこには、いわゆるスポ根マンガ的な挫折と復活のドラマもあるにはあるが、熱くというよりドライに描き出す。
超凡人である私には、身体能力の限界に挑む彼らが到達するゾーンは想像すらできないが、勝つ者も負ける者もその一瞬にかける生き様は神々しいばかりだ。

この映画は多くの場面でロトスコープを用いているのではないか。エンドロールにクレジットされていたのは、ライブアクションの俳優だと思われる。
ロトスコープはともすれば動きが実写と変わらなくなってしまい、リアルで滑らな反面アニメーション的な面白みに欠けてしまう危険性がある。
しかし、斬新な演出でアニメーションならではの迫力と情緒を醸し出している。
スピード感を出すための描写、足の違和感を示す描写などに加えて、背景もその場面の状況によって異なる描法を用いている。背景をも心理描写の一部にしているのだ。

究極は雨中のレースのシークェンスだ。
本当の雨の競技会を撮影してロトスコープでアニメに起こしたのではなかろうか。いかにも本物らしい競技会の模様から長く激しい10秒間の描写へと流れていく、あの緊迫感。
そして、土砂降りの雨が幕を下ろすかのように人物を遮蔽していく演出のセンスには脱帽だ。

kazz
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