「世界No.1実力のアニメ大国・日本の制作陣が陸上競技を描くと、こんなとんでもない作品が爆誕する」ひゃくえむ。 LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
世界No.1実力のアニメ大国・日本の制作陣が陸上競技を描くと、こんなとんでもない作品が爆誕する
原作は『チ。地球の運動について』の魚豊。その2018-19年の連載デビュー作品がアニメ化され、9月19日から公開中。
いやーすごかった。圧倒された。
2025世界陸上TOKYOは盛り上がったけれど、野球やサッカーに比べちょっとマイナーな陸上競技。
その中でもマラソンと並んで一応「華」と言われる100m走という種目に焦点を当てたマニアックな原作コミックなので、ウェブ連載当初はPV数が伸びずに単行本化がされない予定でしたが、その後じわじわと人気が出てコミックが出版、そしてついに今年はアニメーションに。
わずか10秒に人生を賭ける狂気。
しかし物語の後半で、「もう、記録はどうでもいい。誰と競うか?だけが一番大切なことで、それを追求することが幸福だ」(要旨)という台詞が響く。
トガシ、小宮、仁神、海棠・・・それぞれの天才と努力と狂気が、私のような凡人をも揺さぶり続ける。
このテーマは何だか懐かしい。
そうだ、まったくジャンルも設定も違うが、『ルックバック』に通じるのだ。
映画の製作技術的に言えば、これはアニメとしての質が異常と言っても良いくらい高い。
ロトスコープを使って、例えば高校生になったトガシを陸上部に勧誘する女子先輩・浅草の微妙な表情や、疾走する選手たちの腕振り・腿上げの身体の所作など、驚くほどきめ細かに表現している。
(まったく横道にそれるが、浅草センパイの実写俳優の演技は若き日の広末涼子をイメージしていないか?)
特に仰天したのは、雨のインターハイのスタートシーン。
招集→スターティングブロックのセッティング→一人ひとりの選手紹介→レディ→セット→スタートに到るまで、ワンカットで長回ししながらカメラのほうが動いていく視点を、3分間の長きに渡ってアニメーションでやるか?普通。
このシーンはVC陣も驚嘆していて、YouTubeの座談会で一部だけ紹介されているのでここにも記しておく。
※この本文でURLを記入するとどうも投稿をハネられるようだ。YouTubeで改めて次のタイトルを検索願いたい。
劇場アニメ『ひゃくえむ。』公開記念スペシャル座談会映像【𝟗.𝟏𝟗(𝐅𝐫𝐢)公開】
一方、背景に使いがちな3DのCGをどうやらほとんど使っていないようだ。上記の雨のインターハイのスタンド席など、カメラが動いていく表現をする以上はあの背景を手描きか!? もはや、アートとしか言えない味を出している。
このような重要なシーンは、そのシーンごとに作画・制作責任を持つ個別のユニットが設定されていたようで驚いた(エンドロールにそんなふうな表記があり)。
上記の座談会で明かされている通り、どうやらこの雨のインターハイのシーンはここだけで昨年8月から1年間の時間を費やした、という。ということはそこから最終仕上げやチェックを経て公開に到ったわけで、これじゃ世界陸上の開会には間に合わないwwww
ここ数年、コンスタントに年間100本近く映画館で映画を観る私だが、日本製アニメに関しては昨年は8本、今年はすでに7本観ている。それなりに目は肥えているつもりだ。
もはや「アニメ」と表現したときのかつてのオタク感やローティーン向けイメージとはまったく程遠い。
アクション系、例えば『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』『怪獣8号』などを別にして、昨年から数えても『デデデデ』『きみの色』『モノノ怪』『ルックバック』『ヴァージンパンク』『Chao』と、色彩や躍動感で舌を巻くような作品が続々と生み出されている。
そんな世界No.1の実力を持つ日本の制作陣が「陸上競技」を描くと、こんなにもとんでもない作品になる。
あともう2~3回は楽勝でリピートで観に行こうと思う。
【9/24追記】
矢も盾もたまらず、次の日に2回目を観に行ってしまった。あの「雨のインターハイの3分間」を観るためだ。
しかしそれに劣らず、鰯弐陸として800m男女混合リレーに出場するために練習に4人が心血を注ぐシーン、本番のレースシーンも改めて見応えがあることに感服する。
この作品、もっともっとたくさんの人に届いて欲しい。
追記2
ところでこの作品は、製品ブランド名や地名、競技場名がリアルに登場していて、そのあたりもリアリティを補強していると思う。
競技場の用具類は、圧倒的にNISHI(笑)。
選手ごとにウェアやシューズのブランドが違うのもおもしろい。トガシはナイキ、小宮はアディダス、仁神はミズノ、海棠はプーマ、そして財津はアンダーアーマーである。
なぜかアシックスがないw エンドロールの協力企業一覧でもロゴが見当たらなかったので、何らかの条件が合わなかったのか。
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