劇場公開日 2025年9月19日

「「感動」を超える「圧倒」」ひゃくえむ。 コブさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 「感動」を超える「圧倒」

2025年9月20日
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鑑賞方法:映画館

終わってみれば、一度も涙は流すことはなかった。感じたのは「感動」よりも「圧倒」だった。この映画は、すべてがラストの「10秒」に向かって収斂していく。

まずストーリーについて。スポーツ映画の多くは、対戦と勝敗が生む高揚や挫折で観客の感情を揺さぶる。しかし本作は、競技を「なぜやるのか」という理性の部分を徹底して問い続ける。そこには、栄光の高揚や敗北からの挫折のようなドラマはない。ただ理想と現実を突き合わせ続ける。いわば「人生哲学」ならぬ「スポーツ哲学」の映画だ。そこで発される言葉は、時に誰かの生き方を変えうる“名言”として響く。
正直、その言葉の密度は一度の鑑賞では咀嚼し切れないほど早く流れていく。だが、数あるフレーズのうちひとつでも心に引っかかれば儲けものだと思う。

演出面では、競技シーンを中心にロトスコープを用いた表現が冴える。派手な展開もなく数秒で終わってしまう100メートル走は映画的に“絵”にしづらい。だが、この技法がスタート前の張り詰めた緊張感とゴール後の脱力感を生々しいまでに可視化し、熱の質量を伝えてくる。アニメーションとしても一見の価値があるだろう。

私自身、個人競技の経験があり、鑑賞前はどこかで「共感」や「涙」を求めていた。はっきり言って泣きに行くつもりだった。けれど、彼らほどストイックに打ち込んだわけではない私には、その情熱と苦悩はあまりのも遠く、涙はおろか共感すら難しかった。
ただし、あの「10秒」だけは別だ。100メートルを走った者にしか届かない領域に、確かに触れられた気がする。それを演出し切ったこの映画には、ただただ圧倒された。

コブ
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