「他人には理解されない愛のカタチ」Back to Black エイミーのすべて regencyさんの映画レビュー(感想・評価)
他人には理解されない愛のカタチ
エイミー・ワインハウスについては27歳で夭折したという事ぐらいしか知らない。なので、エイミー役のマリサ・アベラがどれだけ本人に寄せているかは比較できないが、少なくとも熱演である事は確か。終盤に近付くにつれ、顔からどんどん生気が失われていく様相は鬼気迫るものがある。
どんな伝記ものでもそうだが、実在した主人公にどれだけ感情移入できるかが内容にハマるカギ。そういう点では本作のエイミーはちょっと弱い。人気歌手となる前から酒や大麻を嗜好していたらしいが、家庭内不和に苦しんでいたというわけでもない彼女がなぜそうなったかの経緯が、本編を観る限りでは不明瞭だし、恋人ブレイクとの馴れ初めもなんか少女恋愛漫画のような唐突感がある。エイミーの遺族が立ち上げた財団公認で作られているので、あまりドロドロな内幕を描けなかったのが裏目と出たか。ドキュメンタリー映画『AMY エイミー』では身勝手なステージパパという印象で映っていた父親が、本作では良き理解者となっているあたりにも、何らかの思惑を感じずにはいられない。本作か『AMY エイミー』のどちらを先に観るかで、彼女や周辺人物に対する印象は大きく変わってくるかと思う。
ヤク中で定職も持たない(と見受けられる)ヒモ同然のバム(Bum=クズ)のブレイクだが、嗜好する音楽センスでエイミーのハートを射止める。別れを告げられても刑務所入りになっても一途に彼を想い続ける彼女の心情は、多くの人には理解しがたいだろう。まさに「愛は盲目」だが、これも愛のカタチ。そういえば監督のサム・テイラー=ジョンソンは、アブノーマルな恋愛を描いた『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』を手がけていた。
エイミーの心情を彼女の曲を用いて描くという、定番の作劇方法がこれほどまでにハマった作品もない。自らの喜怒哀楽を赤裸々に歌詞にぶつけるからこそ、ファンは共感する。そういう意味でもエイミー・ワインハウスは、まごうことなきシンガーソングライターだった。