「日本神話サスペンス。かなり人を選ぶ」男神 shinさんの映画レビュー(感想・評価)
日本神話サスペンス。かなり人を選ぶ
『男神』は現代の物語でありながら、古代から伝わる日本の死生観や共同体の風習を色濃く映し出している。
男神は共同体が男の子という生贄を捧げなければ鎮まらない存在として描かれる。これは古代日本における荒ぶる神の典型である。荒ぶる神は破壊と災厄をもたらすが、その力を鎮めるために犠牲が捧げられ、同時にその村や部落などの共同体には秩序と連帯が強く求められる。生贄という犠牲を通じて共同体が存続するという構図は、古代の民俗的信仰の反映であり、『男神』の緊張感の根底に流れている。
この作品は、不思議な儀式と異界の物語として観ることもできるが、日本神話や民俗の知識を踏まえると、死と再生、境界と日常、共同体と犠牲といった普遍的なテーマが浮かび上がる。日本文化の奥深さを知ることで初めて、その本当の姿を現す作品だといえるだろう。たとえば、儀式で科学の産物であり現代を表すユンボ(ショベルカー)を使っているのも現代の世界観と課題の世界観の境界を感じさせるギミックだ。ラストの母親の行動は現代ではなく古代の共同体的価値観の強さを現す行為だったと私は解釈し、その点に最も畏怖を感じた。
ホラーとしてはSEや映像の陰影で緊張感を引き立てているが、ジャンルとしてはサスペンスに近い印象である。
もしこれから観る方は、以下も押さえると面白いと思う。(古代から近代まで日本における慣習等)
1.白馬は古代祭祀において神に仕える神馬であり、異界と現世をつなぐ存在であり、清めや境界の象徴と解釈できる。
2.一方で、ある男が世話をする茶毛の馬は、農耕や日常生活に根ざした存在であり、現世の営みと安定を象徴する。
3.日本は特に共同体の結びつきが強く、村から除け者にされる事を極端に恐れる民族である。共同体の価値観(信仰や儀礼など)による呪縛は凄まじく、その共同体の一員の無意識下に深く根を張っている。
4.現代では共同体としての結びつきは緩くなっており、特に都会では核家族化が進み、顕著である。
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他の面での評価。
▼よかった点
映像が美しい。特に陰影の使い方は秀逸である。
自然美が美しい。ロケ地は岐阜の山奥だと思うが村の雰囲気を損なう事なく違和感なく古代日本を感じられた。
▼悪かった点
効果音があからさまなホラーテイストであり、私自身、邦画ホラーの展開パターンなのでお腹いっぱいという感じ。馬の足音なども不自然なので、むしろ無音だった方が映像に集中できた。
▼惜しかった点
これは欲を言えば、だけどロケ地の山林が針葉樹ばかりなので、CGを用いた自然美が導入部分にある分、本編の参道は古代感がなく残念だった。登山やハイキングをよくしている人間からすると違和感がとても強い。予算がきつかったかもしれないが本州にはない広葉樹林などで撮影できたらより根の国の世界観が表現できたと思う。
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